海賊版対策の強化等を内容とする著作権法改正法案が閣議決定される
岩田合同法律事務所
弁護士 冨 田 雄 介
インターネット上で漫画・雑誌等の海賊版をアップロードする行為等による著作権者等の被害は深刻化しており、例えば、海賊版サイトとして有名であった「漫画村」(現在は閉鎖済みであり、元運営者は著作権法違反等により起訴されている。)については、同サイトの利用者によって約3000億円分の出版物が無料で読まれたとの試算がなされている。また、同サイトの閉鎖後も依然として多数の海賊版サイトが存在しており、アクセス数上位10サイトだけで月間延べ6500万人が利用しているとの試算もなされている(文化庁「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律案 御説明資料」[1])。
この点、現在の著作権法上、著作権者の許可なく著作物をインターネット上にアップロードする行為は著作物の種類にかかわらず違法とされているが(著作権法23条1項、63条1項)、アップロード者が特定できなかったり海外にいたりするなど、著作権者等による迅速かつ円滑な権利行使や摘発が困難な場合があるとの指摘がなされていた。
また、かかる海賊版サイトについては、著作権を侵害するコンテンツ(以下「侵害コンテンツ」という。)にアクセスしてダウンロードする利用者が多数いることによって、アップロード者が多額の広告収入を得られることに繋がるなど、利用者の存在がアップロードを助長している面があるとの指摘もなされていた。しかし、現在の著作権法上は、違法にアップロードされたことを知りながら侵害コンテンツをダウンロードする行為が違法とされているのは音楽・映像についてのみであり、その他の著作物については、私的使用目的で行われる限りにおいては、かかる行為は違法とされていなかった(著作権法30条1項参照)。
このような背景を踏まえ、本年3月10日、インターネット上の海賊版対策の強化等を内容とする著作権法改正法案(以下「改正法案」という。)が閣議決定された。
改正法案では、①違法にアップロードされた音楽・映像以外の一切の著作物(例えば、漫画、書籍、論文、コンピュータプログラム等)を、違法にアップロードされたものと知りながらダウンロードすることは、私的使用目的であっても一定の要件の下で違法とすることとされた。
また、違法にアップロードされた著作物へのリンク情報を集約した「リーチサイト」や「リーチアプリ」によって海賊版被害が深刻化しているとの指摘もなされていたことから、改正法案では、②(a)リーチサイトの運営行為やリーチアプリの提供行為、及び(b)リーチサイトやリーチアプリにおいて侵害コンテンツへのリンクを提供する行為も違法とされた(改正後の著作権法113条2項)
上記①は、私的使用目的のダウンロードを対象とする改正であるところ、企業の従業員が業務の一環として侵害コンテンツをダウンロードする行為はそもそも私的使用目的とはいえないから(なお、私的使用目的によらずかかる行為を行うことは現行の著作権法上も複製権(著作権法21条)侵害として違法である。)、当該改正は著作物の利用者としての企業には直接は影響を与えないと考えられる。
また、上記②(a)に関し、改正法案では、自ら直接的にサイト運営やアプリ提供を行っていないプラットフォーム・サービス提供者(例えばYou Tubeの特定のチャンネルがリーチサイトに該当する場合におけるYou Tube全体を管理するGoogle)には、原則として上記規制が及ばないことが規定されている。もっとも、かかるプラットフォーム・サービス提供者についても、著作権者等から侵害コンテンツへのリンクの削除要請を正当な理由なく相当期間にわたって放置している場合等には上記規制が及ぶとされている(改正後の著作権法119条2項4号参照)。改正法案は今国会での成立を目指すこととされているため(なお、上記①の施行日は2021年1月1日が、また、上記②の施行日は本年10月1日が予定されている。)、特にプラットフォーム・サービス提供者については、上記②(a)の規制範囲がどのように規定されることとなるか、今後の国会での審議を注視する必要があろう。
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