2020年3月26日号
タイ:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将平
はじめに
3月25日、小池都知事が新型コロナウイルス感染の現状を「感染爆発の重大局面」と評し、在宅勤務の推奨や週末の外出自粛を呼びかけるなど、国内における新型コロナウイルスの感染加速への緊迫感が増しています。また、渡航制限の拡大等に伴い、海外に子会社・関係会社を抱える企業からの問い合わせも増えているため、速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年3月25日夜時点で判明している情報に基づいています。
全体概況 死亡者:4人、感染者数:934人(3月25日現在) 3月中旬以降、感染者が急増している。ムエタイスタジアムでの集団感染等を契機に感染が拡大しているとみられ、3月18日以降娯楽施設等が閉鎖されたことに伴い、バンコクから地方に帰郷する人を通じて全土に感染が広まることが懸念されている。感染拡大を踏まえ、3月24日付の閣議決定により、非常事態宣言が発令されることとなった(適用期間は3月26日から4月30日まで)。海外からの外国人の渡航には厳しい制限が課せられ、事実上入国が制限されている。3月22日以降、バンコク及び周辺県の商業施設(スーパーマーケット及びテイクアウト向けのレストラン営業を除く)は閉鎖されている。 |
主な政府発表
- ・ 3月1日付で、新型コロナウイルス感染症は、感染病法上に基づく危険伝染病として指定された。当該指定により、事業所の所有者や管理者は、感染の疑いのある者が出た場合には、3時間以内に当局に届け出る義務を負うこととなった。また、当局が、感染の疑いのある者に対する検査の命令、市場、飲食店、工場、公共集会施設、教育機関等の一時閉鎖等の措置をとることが可能となった。
- ・ 3月17日の閣議において、3月18日から2週間、大学、インターナショナルスクール、塾等の閉鎖、並びに、バンコク及び周辺県のパブ、娯楽施設、マッサージ店、映画館等の閉鎖が決定された。また、ソンクラン(タイ正月)の祝日(4月13日から15日)が延期されることとなった(振替日の日程は追ってアナウンスされる)。
- ・ 3月21日付で、バンコク及び周辺県の商業施設(スーパーマーケット及びテイクアウト向けのレストラン営業を除く)に対して閉鎖命令が出ており、3月22日以降閉鎖されている。
- ・ 3月23日付で、バンコクから、都民及び民間企業に対して、外出自粛等の協力を求めるアナウンスが行われている。また、3月25日からは、公共交通機関におけるマスクの着用が義務付けられている。
- ・ 3月24日付の閣議決定により、非常事態宣言が発令されることとなった(適用期間は3月26日から4月30日まで)。外出禁止、集会禁止等の具体的な措置はとられていない。
渡航情報
- ・ 3月22日以降、出発地や居住地を問わず、タイへの渡航便に搭乗する全ての外国人の搭乗に際して、検査の結果新型コロナウイルスが検出されなかった旨を証明する英語の診断書(72時間以内に発行されたもの)の提示、及び新型コロナウイルスによる疾病を含む医療費をカバーする健康保険(補償額10万米ドル相当以上)への加入を示す証書の提示が求められることとなっており、日本からの渡航は事実上制限されている。
- ・ その後、非常事態宣言の発令に伴い、3月26日以降、外国人の入国が原則として禁止されることとなった(例外的に、労働許可証の保有者は健康証明書の提示により入国が認められるが、自宅等における14日間の自己観察(外出は許可制)が要請される)。
その他
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・ 日本への渡航歴のあるタイ人感染者が日本への渡航歴を当初申告していなかった事案が発生し、当該感染者の対応が問題視されている。検査等の場面で渡航歴等の照会があった場合には、正確な申告を行う必要がある(危険伝染病に関して、医師に対して渡航歴を隠すことや虚偽の情報を伝えることは、2万バーツ以下の罰金の対象となる)。
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・ タイの会社は、会計年度終了後4か月以内に年次株主総会を開催することが法律上求められているが、管轄当局である商務省から、期限内に開催できなかった場合には、開催後にその旨を文書で報告することを求めるアナウンスが行われた(期限内に開催できないことを事実上容認する趣旨のものであると解される。)。
- ・ 労働保護福祉局から、労使に対する協力要請のための通達(感染のリスクがある又は隔離が必要と認められる従業員がいる場合には労働監督官に報告すること等を含む)が行われている。
- ・ 労働法上、祝日は各使用者が個別に定めて従業員に対してアナウンスするものであるため、ソンクラン休暇の祝日を延期する旨の政府決定の効果が各使用者に当然に及ぶものではない。政府決定に従ってソンクラン休暇を延期するか否かは、各事業者において判断することになる。
- ・ 労働法上、事業を全部又は一部停止する際には、不可抗力に基づく場合には無給で従業員を一時帰休させることができ(ノーワークノーペイの原則)、また、不可抗力以外の場合には通常賃金の75%の支払いが必要となる。労働省労働保護福祉局発行のガイドライン(3月18日付)においても、政府の命令によって閉鎖となる事業所については、不可抗力により休業を余儀なくされているものであり、その期間中の賃金を支払う必要はないとされている。したがって、政府命令に従って閉鎖となったレストランや商業施設においては、従業員に対して無給での一時帰休を命じることができると考えられる。
(ささき・しょうへい)
長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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