◇SH0001◇最三小判 平成26年2月25日 共有物分割請求事件(寺田逸郎裁判長)

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1 事案の概要

 (1) 本件は、遺産分割審判によりXらとYの持分各4分の1で共有取得するものとされた株式、MRF等の投資信託受益権(振替投資信託受益権)及び個人向け国債につき、XらがYに対し共有物分割等を求めた事件である(以下、分割対象となった国債等を「本件国債等」という。)。

 (2) 1審は、本件国債等のいずれについても、4で割って小数以下を切り捨てた数をXらが取得し、残余をYが取得するとの本案判決をした。これに対し、原審は、本件国債等に基づく権利は、その性質上、可分債権に該当し、相続と同時に当然に分割されるなどとして、1審判決を取り消し、Xらの訴えを不適法却下した。

 (3) Xらが上告受理申立て。本判決は、本件国債等は相続により当然に分割されるものではないから、遺産分割審判により準共有となり、共有物分割請求は適法なものであるなどとして、原判決を破棄し、事件を原審に差し戻した。

2 投資信託受益権について

(1) 投資信託の仕組み等

 投資信託は、投資者から集めた資金を信託の形式で運用しその成果を投資者に分配する制度であり、投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」という。)に規定されている。

 本件で問題となっている投資信託受益権は、投信法3条以下に規定されている委託者指図型投資信託と、投信法58条以下に規定されている外国投資信託の2種類であるが、このうち、委託者指図型投資信託の仕組みは、おおむね次のとおりである。

投資信託委託会社と信託銀行が、委託会社を委託者、信託銀行を受託者とする信託契約を締結する。委託会社は、信託契約に基づいて発生した受益権を均等に分割し、通常は販売会社を通じて投資家に販売する。従前は、この受益権について受益証券が発行されていたが、現在では、社債、株式等の振替に関する法律(以下「社振法」という。)により、振替投資信託受益権については、原則として受益証券は発行されず、受益権の帰属は、振替機関等が管理する振替口座簿によって定まるものとされている(社振法121条により準用される66条及び67条)。

 投信法上、投資信託受益権を取得した者は、収益分配請求権及び償還金請求権を取得するとともに(6条)、委託会社に対する信託財産の帳簿閲覧請求権等の権利を有することになる(15条2項等)。また、通常、信託契約では、委託会社に対する解約実行請求権が定められ(投信法4条2項18号、同法施行規則7条4号参照)、これを行使することにより、受益者は、委託会社又は販売会社に対する解約金支払請求権を取得する。

(2) 判例学説の状況等

 ア 共同相続された金銭債権その他の可分債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとするのが最高裁判例であるが(最一小判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁等)、これまで共同相続された投資信託受益権が当然に分割されるか否かについて判示した最高裁判例はなく、下級審裁判例及び実務家の見解は、おおむね、当然分割を肯定するものと否定するものとに分かれている。

 イ 当然分割を肯定する見解は、投資信託受益権と金銭債権との類似性等を根拠として、共同相続された投資信託受益権は、相続分に応じた口数が当然に分割帰属するとする見解である。この見解によると、例えば、100口で相続人が2人の場合には、50口ずつに分割されることになる。

 この見解の中には、①投資信託受益権は、口数を単位とする可分な権利であるとして投資信託一般について当然分割を肯定するもの(奧国範「一部の共同相続人による投資信託の解約等の請求に対する対応」銀行法務21・723号4頁等)、②商品設計上、解約実行請求権及び解約金支払請求権が最も中核的な権利とされているものについては、金銭債権に準ずるものとして当然分割を肯定するもの(上原裕之ほか『遺産分割』リーガル・プログレッシブ・シリーズ(2010、青林書院)159頁以下等)がある。そして、後者の見解は、いわゆるMMFやMRFについては、1口が1円単位であり、購入及び解約が自由で、証券会社等の口座で管理され、ATMの利用が可能であるなどの点において、解約実行請求権及び解約金支払請求権が最も中核的な権利として位置付けられているとして、相続による当然分割を肯定する。

 共同相続された投資信託受益権の当然分割を肯定した裁判例としては、大阪地判平成18年7月21日金法1792号58頁〔MMF及びMRFの事案〕、東京地判平成21年5月14日公刊物不登載〔投資信託の内容は不明〕、東京高判平成25年3月27日公刊物不登載〔MRFの事案〕などがある。

 ウ 当然分割を否定する見解は、投資信託受益権には、収益分配請求権のほか、帳簿閲覧請求権や議決権などの不可分な権利が含まれていることなどを根拠として、共同相続された投資信託受益権は当然には分割されないとする見解である(渡辺隆生「投資信託の共同相続人の一部からの解約支払請求」金法1907号4頁は、「可分債権とは、誰から見ても疑いなく容易に分割可能と判断できる債権に限定すべき」であるとして、投資信託受益権の当然分割について否定的立場に立つ。)。共同相続された投資信託受益権の当然分割を否定した下級審裁判例としては、熊本地判平成21年7月28日金法1903号97頁〔MRF等の事案〕、その控訴審である福岡高判平成22年2月17日同号89頁、福岡地判平成23年6月10日金法1934号120頁〔MRF等の事案〕等がある。

(3) 検討

 当然分割を肯定する見解においても、共同相続された投資信託受益権が1口である場合や口数ごとの分割によって端数が生ずる場合には、投資信託受益権の準共有を認めざるをえないと考えられる。そうすると、口数ごとの当然分割を認めつつ、一定の場合には準共有を認めることになり、論理的一貫性に欠けることとなろう(中田裕康「投資信託の共同相続」現代民事判例研究会編『民事判例Ⅵ』(日本評論社、2013)17頁参照)。また、投資信託受益権は、委託会社に対する閲覧謄写請求権など、性質上可分であるとはいえない権利を含んでおり、これらの権利も、法律上は、収益分配請求権と差異があるものとされていない。そうすると、その経済的機能はともかく、法律上は、投資信託受益権は金銭債権と性質を異にするといわざるを得ず、相続による当然分割について両者を同一に論ずることは難しいように思われる。

 本判決は、以上のような検討を踏まえ、当然分割否定説を採用し、MRFを含む投資信託受益権について、相続による当然分割を否定したものであると考えられる。

3 個人向け国債について

(1) 

 国債は、国が発行する債券であり、公募による国債の発行は、消費貸借類似の一種の無名契約であるとされている(村瀬吉彦「国債」雄川一郎ほか編『現代行政法大系10財政』(有斐閣、1984)123頁等)。個人向け国債とは、国債に関する法律2条の2の規定の適用を受ける国債であって、専ら個人が保有することを目的とし、かつ、その権利の帰属が社振法の規定による振替口座簿の記載又は記録により定まるものとして発行する国債をいい(個人向け国債の発行等に関する省令2条)、現在、個人向け国債としては、変動金利型10年満期のもの、固定金利型5年満期のもの、固定金利型3年満期のものが発行されており、発行条件等は、発行毎に財務省の告示によって定められている。

(2) 判例学説の状況

 投資信託受益権と同様、共同相続された個人向け国債が当然に分割されるか否かについての最高裁判例はなく、この点について判示した裁判例としては、当然分割を否定した前掲・福岡地判平成23年6月10日がみられる程度である。また、学説では、国債一般について、購入単位が定められていること、国債証券が発行される場合もあることなどを理由に共同相続による当然分割を否定するのが多数説である(上原ほか・前掲157頁等)。

(3) 検討

 国債の権利関係が消費貸借類似のものとされていることからすると、個人向け国債は、金銭の給付を目的とする可分な権利であると考えられる。しかし、個人向け国債の額面金額の最低額は、1万円とされ、社振法による振替口座簿の記載又は記録は、その最低額面金額の整数倍の金額によるものとされており(個人向け国債の発行等に関する省令3条)、このように法令上、個人向け国債の取引及び管理に一定の単位が設けられていることからすれば、個人向け国債においては、額面金額を最低単位として権利の帰属が定められることが予定されており、1単位未満の権利行使は許容されていないものというべきであろう(同令6条の中途換金の場合の個人向け国債の買取りも1単位ごとに行われるものと解される。)。この点、最二小判平成22年10月8日民集64巻7号1719頁は、一定期間の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものである定額郵便貯金債権について、郵便貯金法が分割した権利行使を許容していないことなどを理由に相続による当然分割を否定している。上記の最判の考え方からすれば、法令上、単位未満の権利行使が許容されていない個人向け国債についても、相続による当然分割は否定されることになろう。

 本判決は、以上のような検討を踏まえ、個人向け国債について相続による当然分割を否定したものと思われる。

4 まとめ

 本判決は、最高裁判所として初めて、共同相続された投資信託受益権及び個人向け国債について相続による当然分割を否定したものであり、実務上、重要な意義を有するものと考えられる。

以上

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