◇SH0151◇ベトナム:新PPP政令案 澤山啓伍(2014/11/28)

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ベトナム:新PPP政令案

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

1 インフラの未整備

 ベトナム・ハノイにずっといると街の様子に変化は乏しいように思えるが、よく考えてみると実は交通インフラの面での整備は少しずつ進んでいる。既に供用を開始されている立体交差点や高速道路は、駐在を開始した頃にはなかったし、完成間近のニャッタン橋やノイバイ空港の新ターミナルも、ハノイの街に大きな変化をもたらすであろう。

 このような進展はありながらも、ベトナムにおいてインフラ整備がまだ不十分であることは誰の目にも明らかである。JBICによる「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」でも、ベトナムにおける課題として企業が指摘している項目の第一位は、ここ5年間常に「インフラが未整備」である。

2 PPP方式に関する法整備と問題

 この状況を打破するために、ベトナム政府は、民間資金の導入の必要性を強調し、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ、官民連携)方式を利用したインフラプロジェクトの導入による民間資金の活用を目指している。

 もちろん、このような動き自体は今に始まったことではない。もう十何年も前からBOT方式等についての概念は法制度上存在していた。しかし、実際にはベトナムにおけるPPP方式でのプロジェクト、特に外資企業が参入しているものは数えるほどしか実現していない。その原因は様々挙げられるが、参入を検討している外資企業側からすれば、ベトナム政府との間でのリスク分担の方法に関する認識の溝が大きな原因になっていたと言えよう。

 このような状況を打破するため、日本企業も含む外資企業は、様々なチャンネルを通じてベトナム政府に対する働きかけを行ってきた。ここへ来て、ベトナム政府もようやく問題点を認識するようになってきたようであり、それが今般検討されている新しいPPP政令案の策定につながっている。

3 外貨兌換保証

 政令案の内容を詳細にご紹介するのは紙幅の都合上難しいが、例えばこれまでベトナムにおけるPPPプロジェクトにおいて、最も大きな問題として認識されてきた外貨兌換保証の問題に関しては、ある程度の前進が見られる。

 ベトナムにおいては、政府の規制上、民間両替所であってもベトナムドンと米ドルの交換レートは一定の枠内でしか設定できないことになっているため、ベトナムドンと米ドルの需給に応じた実勢レートがこの枠内に収まらない場合、合法的な外貨交換に応じる者がいなくなってしまう。このような場合、ベトナムドンで収入を得るインフラプロジェクトの事業者は、収入の米ドルへの交換ができず、ローンの元利払いや配当の送金に支障が生じることになってしまう。

 このような事態を懸念し、PPPプロジェクトへの参入を検討する外資企業は、ベトナム政府に対し外貨兌換についての政府保証を、参入のための必須の条件として要求してきた。しかし、ベトナム政府は国内の外貨不足を理由に、否定的見解を示してきた。

 この点に関し、新PPP政令案では、「政府の投資プログラムに含まれるインフラプロジェクト、及びその他の首相により承認された重要なプロジェクトについては、外貨バランスの保証について検討される」という規定が置かれている。従来の政府の見解よりは、個別案件の重要性に応じて柔軟性を認めるという意味で裁量の余地は広がっている。ただ、逆に言えば保証が与えられるかどうかは交渉次第ということになる。

4  最低収入保証

 ベトナムにおいても、高速道路や橋梁などの交通案件でのPPP方式の利用も計画されている。途上国での交通案件では、事業者がマーケットリスクを取る形のプロジェクトの組成には困難が多いため、事業者がマーケットリスクを取る形のプロジェクトだけではなく、あらかじめ定められた一定の利用可能状態が達成・維持されていれば満額の支払いが得られるアベイラビリティ・フィー方式のプロジェクトも積極的に検討すべきように思われる。

 その意味で、新PPP政令案の以前の草案において、事案によっては最低収入保証を与えることも検討するというような規定が置かれていたことは、外資企業の期待を高めていた。しかし、最新版の草案ではこの条項が削除されてしまっている。

5 最後に

 新PPP政令がどのような形で制定されるにせよ、その政令はあくまで枠組みを定めるだけであり、個別のプロジェクトの条件については、政令に定められた政府の裁量の中で、案件の性質に応じて交渉で決まっていく部分が大きくなるだろう。

 ベトナムでは草案として法令案が公開され、パブリックコメントの手続きに付された内容であっても、その後の政府内の調整で内容が180°変わることもままあるため、本稿では細かい草案の内容にまでは立ち入らなかった。内容についてご興味がある方は、個別にお問い合わせいただきたい。

 

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