◇SH0240◇日本ギア工業、臨時株主総会における株主提案議案の承認可決による役員の異動及び代表取締役の異動に関する公表 佐藤喬城(2015/03/04)

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日本ギア工業、臨時株主総会における株主提案議案の承認可決による
役員の異動及び代表取締役の異動に関する公表

岩田合同法律事務所

弁護士 佐 藤 喬 城

 本年2月19日、日本ギア工業株式会社において、株主提案に係る取締役選任議案が承認可決された旨が公表された。

 会社提案の取締役選任議案が提出される株主総会において、株主提案の取締役選任議案が提出される場合、両社の議案の関係が問題となり、従前議論の対象となってきた。公表資料によれば、日本ギア工業の事案は、株主が裁判所の許可を得て招集し、株主提案に係る議題のみが上程された臨時株主総会に係る事案であり、上記議論の対象とされてきた事例とは異なるように見受けられるものの、株主提案が増加傾向にある中で、上記論点について検討しておくことは、本年の株主総会に向けた準備としても有益であると思われるので、ここで取り上げる。

 役員選任に関して会社提案と株主提案の双方が提出された場合に、採決をどのように行うかについては、整理が困難なところである。特に、双方の提案に係る候補者が全員選任されると定款の上限員数を超え、かつ、事前の票読みによって株主提案の候補者が選任される可能性があり、会場における採決を要する場合には、問題が先鋭化する。

 この点に関しては、例えば、下記表記載のとおり、4つの採決方法があり得るといわれている(詳細については、中村直人「モリテックス事件判決と実務の対応―東京地裁平成十九年十二月六日判決の検討―」旬刊商事法務1823号21頁等)ものの、いずれもそれぞれ問題点が指摘されている。

 

採決方法

問題点

候補者を一人ずつ採決していって定款の員数を満たした時点で採決を終わりにし、残った候補者については採決しない(選任されなかったことになる)。

採決順により結論が異なり得るため、株主の意思が適正に反映されているかについては疑問が残る。

たとえば、実際には会社提案のA取締役には51%の賛成が、株主提案のB取締役には70%の賛成があるにもかかわらず、B取締役の選任についてそもそも採決すらしないというのでは、実際にはより多くの株主の賛成を得ている議案が成立の機会を奪われる帰結となりかねない。

株主は、全候補者を対象として、定款上選任可能な数の候補者にだけ賛成投票をすることができることとし、その結果過半数を獲得した候補者を選任する。

投票の結果、全候補者が選任されるケースも生じ得る。したがって、必ずしも常に定款の員数の上限を超えるという状況を回避できるわけではない。

株主は、全候補者を対象に投票することができ、全候補者について個別採決を行い、過半数の賛成を獲得した候補者が定款の員数を超えた場合には、得票数が多い順に定款の員数に満つるまで選任される。

過半数の賛成を獲得した取締役が選任されない場合が生じるため、出席議決権の過半数をもって役員を選任するという会社法上の規定に適っていないこととなる。

単純に、全候補者について個別採決を行い、過半数の賛成を得た候補者が選任される。

投票の結果によっては、上限員数を超える人数の役員が選任されてしまい、定款違反を生じ、決議取消事由の瑕疵を帯びる可能性がある。

 

 以上を踏まえ、どの採決方法が最も望ましいのかは、投票動向等、個別の状況によるものと思われる。

 例えば、会社提案に係る役員候補者数と株主提案に係る役員候補者数を合計しても定款上の上限員数を超えないのであれば、どの採決方法によっても問題は生じないと考えられる。また、事前の票読みにより、株主提案の候補者が選任される可能性がなくなっている場合であれば、会社としては、④の方法を採りやすいように思われる。

 一方で、株主提案の候補者が選任される可能性がある場合には、株主の意思の反映という観点から優れていると考えられる③の方法を採用し、上記の問題点に対しては、選任可能な数を超える候補者がいる場合の採決方法について会社法が何も規定を置いていないことから、議長の議事整理権又は株主総会決議によって、定款違反を避けるための合理的な採決方法を採用することも許される、と整理する立場もあり得るところである。

 いずれにせよ、事前の票読みの結果、現実に上限員数を超える候補者が選任される可能性が生じた場合には、慎重に採決方法を判断する必要があると思われる。また、どの採決方法を採用するとしても、採決方法について議場に諮ることが望ましい。

 近時、株式会社大塚家具においても、会社提案と対立する役員選任議案に係る株主提案がなされ、社会の注目を集めている。本年株主総会への準備にあたっては、同種の株主提案がなされる可能性も念頭におき、対応を検討することも有益であろうと思われる。

以上

(さとう・たかき)

岩田合同法律事務所弁護士。2009年東京大学法科大学院卒業。論考に、『各業務における反社勢力対応のポイント』(共著 銀行実務658号)『Q&Aインターネットバンキング』(共著 金融財政事情研究会)等がある。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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