消費者契約法専門調査会のポイント(第12回)
弁護士 児島 幸良
弁護士 須藤 克己
平成27年6月12日、内閣府消費者委員会において、第12回消費者契約法専門調査会が開催された。以下、その概要を報告する。なお、本報告において、意見に亘る部分は、すべて報告者らの私見である。
1.配布資料
以下の資料が配布された。
配布資料
資 料 1 個別論点の検討(6)―不当勧誘に関する規律④、不当条項に関する規律③―(消費者庁資料)
資 料 2 阿部泰久委員提出資料
資 料 3 山本健司委員提出資料
参考資料1 参考事例(消費者庁提出資料)
参考資料2 資料1の概要(消費者庁提出資料)
参考資料3 古閑由佳委員提出資料 消費者契約法見直しに関する意見
2.議事内容
会議の冒頭、古閑委員から、消費者契約法改正に関する事業者の意見が紹介された(参考資料3)。
次に、消費者庁加納消費者制度課長から、資料1に基づいて、以下の論点ごとに説明がなされ、各論点についての審議が行われた。
1.不当勧誘に関する規律(4)
不当勧誘行為に基づく意思表示の取り消しの効果
2.不当条項に関する規律(3)
不当条項の類型の追加
⑤ サルベージ条項
⑥ 消費貸借における目的物交付前の解除に伴う損害賠償
➆ 消費貸借における期限前の弁済に伴う損害賠償
3.その他
抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除、継続的契約の任意解除権
3.審議
(1)不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
「事業者は、消費者に対して、物の使用により得られた利益や費消されて現物返還が不可能になった物の客観的価値、権利の行使によって得られた利益、又は提供を受けた役務の対価のそれぞれに相当する金銭の支払いを請求することができないという趣旨の規定を設ける」案(甲案)、「意思表示の当時、当該意思を取り消すことができることについて善意であった消費者の返還義務の範囲を現存利益に限定するという趣旨の規定を設ける」案(乙案)、「民法の解釈・適用に委ねる」案(丙案)が示された。甲案に対し、複数の委員から賛成意見があったが、乙案にも賛成意見があった。(なお、欠席委員から丙案に賛成の意見が書面で提出された。)
甲案に対しては、(場面によっては)改正民法と比べ消費者契約法の方が消費者の返還義務が重くなる現象(いわゆる逆転現象)が起きる点が問題ではないかとの指摘があった。
乙案に対しては、「現存利益」の定義付けが問題となるという意見が複数あった。この意見に関連し、改正民法121条の2の「現存利益」と乙案の「現存利益」は、解釈を統一的にすべきであろうとの意見があった。
丙案に対し、まだ改正民法は解釈が固まっていないため、運用が流動的になりはしないかとの意見があった。
(2)不当条項の類型の追加
不当条項の類型の追加として、以下の⑤~➆(第12回会議までにすでに4つの類型(①から④)の追加に関する検討がなされている)が一括して議論された。
⑤ サルベージ条項
⑥ 消費貸借における目的物交付前の解除に伴う損害賠償
(a)貸主は、借主に対し、契約の解除によって受けた損害の賠償を請求することができないという特則
(b)損害賠償額を予定する条項について、法9条1項、10条の解釈運用に委ねる
➆ 消費貸借における期限前の弁済に伴う損害賠償
(a)貸主は借主に対し契約の解除によって受けた損害の賠償を請求することができないという特則
(b)損害賠償額を予定する条項について、当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効
とする規定を設ける案(甲案)、又は法10条の解釈運用に委ねる案(乙案)
⑤について、賛成意見が複数あったが、反対意見(欠席委員による書面での意見)もあった。サルベージ条項があることで消費者が困っている実例を教示してほしいとの意見や、サルベージ条項の問題点は法10条で条項全部が無効となることを包括的にカバーするものであるが、消費者にとってみれば「法律でどの部分が無効なのか」は分からないため、そのような不明確な条項が許されるのかという意見、サルベージ条項があるだけで心理的抑制効果があるのではないかという意見等があった。
⑥や➆については、ピンポイントであり不当条項リストの問題ではないかという意見があった。また、➆について、立替払いでも同様の問題がありうるが⑦では対応できないのではないかとの意見や、法9条1項の改正で対応すべきではないかとの意見、「平均的な損害」という概念の不明確性を指摘する意見等があった。なお、日弁連委員から事務局提案を修正する条項案(日弁連改正試案及び別案)が示された。
(3)抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除
関連法制の検討の状況を注視しつつ、裁判例や消費生活相談事例の蓄積を待って検討することにしてはどうかという提案に対し、割賦販売法で救われない事案もあり改正見送りは反対であるとの意見がある一方、割賦販売法改正の動向を見てからではどうか等見送りを是とする意見もあった。
(4)継続的契約の任意解除権
関連法制の運用や取引の状況等を注視することとしてはどうかという提案に対し、立法見送り反対の意見、継続的契約の解除権を規律するのは難しいという意見、不当条項リストの話ではないかという意見、任意解除権を認めた場合の事業者への影響を調査すべきではないかという意見等があった。
4.その他
次回開催予定:平成27年6月30日(火)13時~