ベトナム:新投資法の草案の概要
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中川 幹久
ベトナムでは昨年末以降、土地法等の不動産関連の法律が改正され、新しい投資法や企業法についても草案が公表されるなど、投資に関連する重要な法律で、これまで外国企業から改正の要望が強かったものについて改正しようとする動きがみられる。今回は、このうちでも、投資活動を巡る基本的な枠組みを規定することとなる新しい投資法の草案(今年4月に公表されたもの。以下「投資法草案」)の主なポイントをいくつかご紹介したい。
1.投資証明書から企業登録証と投資登録証へ
現行の投資法では、外国企業が、例えばベトナム国内に子会社を設立して投資活動を行おうとする場合、投資プロジェクトについて当局の審査等を受け、当局が投資を承認すると、当該投資プロジェクトに対して投資証明書(Investment Certificate)が発行されるが、この投資証明書の取得には長い期間を要し、提出書類も多く手続も煩雑という批判があった。
投資法草案では、投資証明書という名称が投資登録証(Investment Registration Certificate)に変更されるとともに、こうした現行法の下での枠組みも大きく変更され、外国企業がベトナム国内に子会社を設立して投資活動を行おうとする場合、以下のような2つの手続が関係してくることになる。
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・ 会社の設立(企業登録証の取得)
まず、企業法に基づいて企業登録証(Enterprise Registration Certificate)を取得し、会社を設立する。詳細は施行細則等を待つ必要があるが、基本的には、現行法の下でベトナムローカル企業が子会社を設立して事業を開始する場合の企業登録証の取得手続きと類似の簡便な手続が想定されているものと思われる。 -
・ 投資登録証の取得
条件付投資分野に該当する事業への投資を行う場合には、企業登録証に加え、投資登録証を取得しなければならない。他方、それ以外の事業への投資であれば、投資上の優遇措置の適用を受けたい場合等、投資家サイドで投資登録証を取得したいと考える場合に、その任意の判断で取得することとなる。条件付投資分野については、法律・法令等で別途規定される事業とされており、草案を見る限りその範囲が根本的に変更されるようには思われない。
前述のとおり、現行法の下では投資証明書の取得には長い時間と多大な労力が必要とされるが、投資法草案では、条件付投資分野に該当しない事業への投資を行う場合については、こうした手続上の負担から投資家を解放することを目指している。もっとも懸念事項もある。例えば、(投資登録証を取得しなければならない)条件付投資分野に該当するのか否かについて、現行法の下では当局がこれを判断する構造となっているが、投資法草案では投資家が判断しなければならない構造になる。この場合に、結論が一義的に明確でないようなとき、投資家は投資登録証の取得は不要と判断したものの、当局が事後的に投資登録証が必要と判断し混乱が生じないか等、懸念される。また、条件付投資分野の範囲は決して狭くなく、条件付投資分野に該当する場合に現行法の下で生じている各種問題に対して、新投資法の下でどのような手当てがなされるのかについても投資法草案を見る限り定かではない。
2.外国投資家の定義
現行法では、「外国投資家」や「外国投資企業」の定義や規定の仕方も必ずしも明確でないため、下記③④に規定される法人を通じて投資がなされる場合に投資証明書を取得する必要があるのか、またその他の外資規制が適用されるのか等につき一義的に明確な結論が得られず、結果として実務上混乱を生じる原因となっている。
投資法草案では、「外国投資家」という概念を整理し、以下の4つのいずれかに該当するものが「外国投資家」に該当する旨が規定されており、かかる混乱の解消を図ろうとしている。
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・ 外国人
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・ 外国法に基づき設立された法人
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・ 上記①②に規定する個人又は法人が定款資本の51%以上を保有する、ベトナムで設立・運営される法人;外国人が組合員となっている組合
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・ 上記①②③に規定する個人又は法人が定款資本の51%以上を保有する、ベトナムで設立・運営される法人
3.今後のスケジュール
新しい投資法は、今年秋の国会での成立を目指し現在内容の詰めの作業が行われているようである。かかる国会で成立することを前提に、投資法草案では、新しい投資法は2015年7月1日から施行される旨が規定されている。前述のとおり、投資法草案には懸念点なども散見され、今後こうした点についてはさらなる修正が加えられる可能性もある。今後の動向を注視する必要がある。