最二小判、匿名組合契約に関する納税申告につき過少申告加算税賦課決定処分の取消しが認められた事例
岩田合同法律事務所
弁護士 佐 藤 修 二
本件は、匿名組合契約に基づき営業者の営む航空機リース事業に出資した匿名組合員である亡Aが、当該事業につき生じた損失のうち当該契約に基づく同人への損失の分配として計上された金額を所得税法26条1項に定める不動産所得に係る損失に該当するものとして平成15年分から同17年分までの所得税の各確定申告をしたところ、所轄税務署長から、上記の金額は不動産所得に係る損失に該当せず同法69条に定める損益通算の対象とならないとして、上記各年分の所得税につき更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたため、Aの訴訟承継人である上告人らが、被上告人(国)を相手に、上記の各更正の一部、平成15年分及び同16年分に係る各賦課決定の一部並びに同17年分に係る賦課決定の全部の取消しを求めた事案である。
本件のポイントは、平成17年に、匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得の所得分類について、通達の改正があったという事実である。
すなわち、平成17年改正前の所得税基本通達36・37共-21(以下「旧通達」という。)は、大要、匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は、原則として事業所得、不動産所得等に該当し、一定の例外的場合には雑所得に該当するものとしていた。これに対し、平成17年改正後の所得税基本通達36・37共-21(以下「新通達」という。)は、原則として雑所得に該当し、一定の例外的場合には事業所得、不動産所得等に該当するものとしている。雑所得は、給与所得等の他の所得との損益通算が認められない点に特色がある。ことの良し悪しは別として、本件の匿名組合と航空機リースの仕組みは、「節税」効果を有するものであり、本件で亡Aに分配された損失が、雑所得に係るものとして他の所得との損益通算を遮断されるものなのか、それとも事業所得等に該当して損益通算を認められるのかは、課税上大きな違いをもたらす。
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旧通達 |
新通達 |
原則 |
事業所得、不動産所得等 |
雑所得 |
例外 |
雑所得 |
事業所得、不動産所得等 |
最高裁は、所得分類の問題自体については、結論として新通達と同様の解釈を採用し、匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は、原則として雑所得と解され、本件における亡Aに分配された損失に係る所得分類も、この原則どおりに雑所得に該当すると判断し、損失の損益通算を認めないとする課税庁の処分を支持した。
これに対して過少申告加算税については、これが課されない「正当な理由」(国税通則法65条4項)があるものとして、過少申告加算税の賦課決定処分を取り消した。判決理由のポイントは、旧通達と新通達とでは、所得分類に関する「原則」が変更されており、平成17年の改正前に旧通達に従って行われた申告については、当時の課税庁の公的見解に依拠した申告であり、納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものであるとはいえない、という点にあった。
原判決は、種々の理由を挙げて、旧通達と新通達との間で公的見解の変更はなされていないと判断していたが、両通達の間では、原則と例外が逆転していることからすると、課税ルールの変更がなされていると見るのが素直であり、最高裁判決の判断は妥当なものであろう。
最高裁第二小法廷は、昨年末にも、延滞税に関して、課税庁の主張によれば納税者に酷な結果をもたらす事案につき、納税者救済的に柔軟な解釈を行った判決を出しているが(最二小判平成26年12月12日判例時報2254号18頁。当該判決については、武藤雄木弁護士の解説記事《https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=964311》を参照されたい)、このように近年裁判所は、租税訴訟において、納税者の立場に配慮した柔軟な解決を試みているように感じられる。そのような裁判例の一部を取り上げたものとして、拙稿「通達と裁判―通達を巡る納税者勝訴事例」税務弘報2015年7月号を参看頂ければ幸甚である。
(さとう・しゅうじ)
岩田合同法律事務所弁護士。2000年弁護士登録。1997年東京大学法学部、2005年ハーバード・ロースクール(LL.M., Tax Concentration)各卒業。2005年Davis Polk & Wardwell LLP (NY)勤務。2011年~2014年東京国税不服審判所国税審判官。中里実他編著『国際租税訴訟の最前線』(共著、有斐閣、2010)等税務に関する著作多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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