中国:台湾仲裁判断の中国大陸での承認及び執行に関する
新規定の公布施行
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 德地屋 圭 治
仲裁判断に関しては、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(いわゆるニューヨーク条約)があり、条約締結国間では、原則として仲裁判断は相互に承認及び執行可能であるが、中国大陸は加盟しているものの、台湾は加盟していない。台湾の仲裁判断の中国大陸での承認及び執行に関しては、従前、中国大陸の最高人民法院「人民法院による台湾地区の関連法院の民事判決の承認に関する規定」(法釈(1998)11号)(以下「旧規定」という。)によれば、同規定に基づいて中国大陸の人民法院に申請することとされていたが、同規定は、基本的には台湾の民事判決の中国大陸での承認及び執行に関する規定であり、台湾の仲裁判断に関しては、十分な規定がなかった。今般、最高人民法院は、2015年6月29日に、「台湾地区の仲裁裁決の承認及び執行に関する規定」(法釈(2015)14号)(以下「新規定」という。)を公布し(同年7月1日施行)、民事判決とは区別して、中国大陸における台湾の仲裁判断の承認及び執行について、新たな規定を設けたので、本稿では、新規定の概要を紹介する。
1 新規定の概要
(1)適用範囲
旧規定では、中国大陸で承認申請可能な台湾の仲裁判断の範囲について明確な規定はなかったが、新規定では、新たに定めが設けられた。新規定第2条によれば、新規定に基づき承認申請の対象となる台湾仲裁判断は、常設仲裁機関及び臨時仲裁機関が台湾地区において台湾地区の仲裁規定に従って民商事紛争に関し下した仲裁裁決であり、仲裁判断、仲裁和解及び仲裁調停を含むとされている。
(2)仲裁判断の承認及び執行の要件
旧規定においては、台湾の民事判決の承認及び執行に関する旧規定を台湾の仲裁判断の承認申請にも適用するとされていたのみで、不承認とされる具体的な要件が明確ではなかったが、新規定は、ニューヨーク条約に準じて、この点を明確にしている。すなわち、新規定第14条によれば、当事者の無能力又は適用法令により仲裁合意が無効となる場合、被申請人が仲裁手続の通知を受けていなかった場合、紛争が仲裁合意の範囲内でない場合、仲裁手続が仲裁合意に違反している場合、仲裁判断に拘束力がない場合、中国大陸において仲裁により解決できない事項にかかる場合、社会公共の利益に損害をもたらす場合には、人民法院は承認しないとされている。これらの要件の内容は、概ね、ニューヨーク条約と同様の要件となっている。
他方、仲裁判断の承認が「一つの中国の原則」など国家の法律の基本原則に違反する場合には、人民法院は承認しないとされている。この点は、ニューヨーク条約と異なる点である。
(3)管轄人民法院
台湾仲裁判断の承認申請を受理できる管轄人民法院について、旧規定においては、申請人の住所地、通常居住地又は執行対象の財産所在地の中級人民法院とされていたが、新規定では、これらに加えて、被申請人の住所地、通常居住地も追加され、管轄人民法院が拡大され、申請人が利用しやすいものとされている。
2 日本企業に対する意義
新規定は、台湾の仲裁判断の中国大陸における取り扱いについてのものであるので、日本企業とは直接関係がないようにも思われるが、台湾企業の主たる投資先は中国大陸であり、台湾企業の財産は中国大陸にあることが少なくないと思われるため、台湾企業と取引している日本企業としては、新規定に基づき、台湾において台湾企業に対する仲裁判断を得たうえ、中国大陸で執行することを検討することが可能と考えられる。
(注:なお、最高人民法院は、新規定と同日に、台湾の民事判決の中国大陸での承認及び執行についても、「台湾地区法院の民事判決の承認及び執行に関する規定」(法釈(2015)13号)を公布施行しており、旧規定を廃止し、民事判決の承認及び執行について新たな定めを設けているが、本稿の対象とはしていない。)