◇SH3500◇中国:プラットフォームビジネス領域における独占禁止指針の概要(下) 鈴木章史(2021/02/24)

未分類

中国:プラットフォームビジネス領域における独占禁止指針の概要(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鈴 木 章 史

(承前)
 

2. 独占合意の認定について

 

(2)ハブアンドスポーク型合意

 事業者が競争相手である事業者に直接コンタクトするのではなく、何らかの仲介者(ハブ)を介して価格情報等をやりとりすることによって合意を形成する、いわゆるハブアンドスポーク型の合意については、米国やEUを含め諸外国において合意の成立を認める事例が見受けられるところ、中国においても、2020年1月に公表された独禁法の改正案で同様の方法での独占合意の形成を禁止する旨の規定[1]が設けられている。本指針では、ハブアンドスポーク型の独占合意 という合意類型を明確に規定した上で、競争関係にあるプラットフォーム内事業者の間で技術手段、プラットフォームのルール、データやアルゴリズム等の方式を利用して独占合意を形成、実施し、関連市場における競争を排除、制限したといえるか考慮して、独禁法の禁止する独占合意への該当性を判断するとしている(8条)。

 

3. 市場支配的地位の濫用行為について

 独禁法が禁止している市場支配的地位にある事業者の地位の濫用行為に関して(独禁法17条乃至19条)、本指針は、プラットフォームビジネスにおける濫用行為の認定に際して考慮される要素に関し、以下のような具体的な指針を提示している。

 

(1)取引拒絶

 市場支配的地位にある事業者が、正当な理由なく取引を拒絶することは独禁法で禁止されているところ(独禁法17条1項3号)、本指針は、プラットフォームビジネスの特徴を前提に、違法な取引拒絶と認定され得る要素・ケースを列挙している。具体的には、市場の支配的地位にあるプラットフォームビジネス領域事業者が、プラットフォームのルール、アルゴリズム、技術、アクセス量の配分等に不合理な制限や障害を設定し、取引相手の取引を阻害する場合(14条1項4号)や、プラットフォームビジネス領域に必要なシステムを運営する事業者が合理的な条件で取引を行うことを拒否する場合(14条1項5号)等が該当する。

 

(2)取引先制限

 独禁法は、市場の支配的地位にある事業者が、正当な理由なく、取引先が自己又は指定した事業者との間でしか取引できないよう制限を行うことを禁止している(独禁法17条1項4号)。本指針は、市場の支配的地位にあるプラットフォームビジネス領域事業者が、プラットフォーム内事業者に対し、競争関係にあるプラットフォームとの「二者択一」を要請することが、取引先制限行為に該当し得ることが明記された(15条1項1号)。また、プラットフォーム事業者が、検索エンジンにおける検索結果の順序を後ろに配置すること、アクセスを遮断、制限すること、技術的な障害を設けることなどの措置を通じて実施した制限的な行為は、通常、取引先制限行為と認定され得るとしている(15条3項)

 

(3)差別的取り扱い

 独禁法上、市場の支配的地位にある事業者が、正当な理由なく、取引条件の面で差別的な取り扱いを行うことは禁止されている(独禁法17条6号)。本指針は、市場の支配的地位にあるプラットフォームビジネス領域事業者による取引先制限の有無の判断の際の考慮要素として、 取引条件が同一の取引相手に対して、(i)ビッグデータ及びアルゴリズムを用いた取引相手の支払能力、消費嗜好傾向、習慣等に基づく差別的な取引価格その他の取引条件での取引の実施(17条1項1号)、(ii)差異的な基準、ルール、アルゴリズムの実施・実行(17条1項2号)等を挙げている。

 

4. 企業結合規制に関する規定

 本指針では、プラットフォームビジネスに係るVIEスキーム[2]を用いた投資について、企業結合規制の対象となり、法令に定める基準に該当する場合には届出義務を履行しなければならないことが明記された(18条2項)。

 また、本指針は、プラットフォームビジネスに係る投資が、企業結合の申告基準に達していない場合でも、当該企業結合が競争の排除制限効果がある又はその可能性がある場合、規制当局は調査を行うとしている(19条1項)。特に、(i)企業結合の一方当事者がスタートアップ企業や新興プラットフォームである場合、(ii)企業結合の当事者が無料又は低価格のモデルを採用することにより売上高が低い場合、(iii)関連市場の集中度が高く、競争者が少ない場合は、特に注視し調査を行うとしている(19条3項)。これは、特にプラットフォーム事業者がスタートアップ企業を中心とする中小企業を買収する行為(いわゆるkiller acquisition)に対する規制を意図したものであるところ、届出基準に形式的に該当するか否かだけではなく、これらの要素も考慮の上取り締まりが行われ得ることには注意を払う必要があるといえる。

 

以上

 


[1] 独禁法の改正案17条は、事業者は、その他の事業者を組織し、又は援助して独占合意を達成させてはならない、と規定している。

[2] VIEとは、Variable Interest Entitiesの略称で、VIEスキームとは、一般的に、関連する当事者間で契約関係を構築し、中国国内の中核会社を実質的に支配するスキームをいうとされている。外国企業による投資が制限又は禁止されている業種に対する投資や外国において資金調達を行う場合に多く用いられる。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(すずき・あきふみ)

2005年中央大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院修了。2008年弁護士登録(第一東京弁護士会)。同年都内法律事務所入所。2015年北京大学法学院民商法学専攻修士課程修了。同年長島・大野・常松法律事務所入所。主に、日系企業の対中投資、中国における企業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、中国企業の対日投資案件、その他一般企業法務を扱っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました