中国:「爆買い」中国人消費者に日本製品を売る
――越境ECと法律問題(3・完)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
5.中国法上の法的リスク
越境ECはつまるところ海外からの個人輸入と同じであり、中国の法規制等については、通関や検査検疫に関するものを除き、特に検討する必要はないといった考え方もあるようである。しかし、主として日本人向けに日本語で販売しているサイトにたまたま中国人がアクセスして購入したにすぎない場合とは違い、越境ECでは、中国人消費者をもっぱらターゲットにして販売する(すなわち、サイトへの出店・出品にあたっては、中国語で商品情報を記載して(さらには価格を元建てで表示し、中国人向けの支払決済方法を用意し、保税区倉庫からの配送を含め中国国内への配送をもっぱら念頭に置いて)商品を販売する)わけであり、まったく同列に扱うことには疑問がある。これまで越境ECを通じた商品の販売に関しては、輸出入にあたっての通関や検査検疫に関する規定を除き、特別な法令や公式な見解は公表されていないため、現時点でどのように法的リスクを評価するかという問題になる。
まず、中国法人が中国国内で販売する場合には当然許認可(たとえば医薬品であれば中国におけるCFDAの薬事承認等)を取得し、又は中国国内の品質基準を満たすべき商品について、越境ECを通じて海外から直接販売する限りはまったく適用がないと考えてよいか。当該種類の商品に関連する国内法令がすべて直接適用されるというわけではないだろうが、ことさら消費者の生命安全に関わる分野については、通関及び検査検疫さえ通れば良いと考えるのは早計に過ぎるのではないか。なお、実際のところ越境ECサイトでは、処方箋を要する医薬品は販売されていないようである。
次に、消費者権益保護法等に規定されるクーリングオフ、損害賠償等の消費者保護の規定についても、適用の余地があると言わざるを得まい。もっとも、越境ECサイトでは、その規約により、(おそらくは消費者に対する訴求力上昇やクレーム回避のために)消費者に有利な条件での販売を出店者に要求しているところも多い。
さらに、越境ECで販売する商品に付された商標が、(本国では自らの名義で商標登録しているのに対して)中国において第三者に商標登録されてしまっている場合(冒用登録の場合も含めて)に、当該第三者から商標侵害として損害賠償等を請求される可能性があるか。前述の越境ECの性質に照らせば、中国における販売行為として侵害が認められる余地はあるのではないか。日本企業としては、越境ECでの販売に乗り出す前に中国における商標登録及び/又は商標調査を万全に行っておくべきであろう。
6.おわりに
中国における越境EC市場は今後も拡大が予想されるため、規制動向をウオッチし法的リスクを個別かつ慎重に判断しつつも、時機を逃さず果敢に取り組んでいくべきであろう。
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