スポーツとEU競争法違反
亀 岡 悦 子
2015年10月5日、欧州委員会は、国際スケート連盟のルールがEU競争法違反でないか正式審査を開始することを発表した。これを機会に、EU競争法とスポーツの関係を概観しようと思う。
この審査は2人のオランダのアイススピードスケート選手による不服申し立てがきっかけになった。この選手によれば、国際スケート連盟が選手の活動を不当に妨害する規則を設けているという。国際スケート連盟は、国際オリンピック委員会に認められた唯一のフィギュアスケート、スピードスケート、シンクロナイズドスケーティングなどのスケート競技を総合的に扱う組織である。特に欧州委員会は、国際スケート連盟によって認可されていないスケート競技行事に参加した選手を、永久に冬季オリンピックや世界政界選手権、欧州選手権などの重要な行事参加から退けるルールを問題にしている。このようなルールは、他のスケート行事組織団体がスケート行事を催すのに不当な障害になっており、スケート市場から撤退を余儀なくされている可能性があるとする。Vestager競争政策担当欧州委員は、もしこのようなルールが、スポーツイベント開催についての支配的地位を濫用するために利用されたり、他の競争制限のために用いられているのなら、反競争的な協定あるいは支配的地位濫用事件として審査が必要であろうと述べている。
スポーツイベントがEU競争法の審査対象になったのは本件が初めてではない。欧州裁判所によれば、スポーツルールが正当化できるような目的を有し、この目的に相応なもので、それを達するに必要な制限であればEU法違反ではない。しかし、ルールが単にスポーツを対象にするというだけでEU競争法の範疇から外れることはない。スポーツ団体の規定や活動でも、団体の内部運営や内部規則の範囲を超え、国際的なレベルでの競争法違反行為と判断されるおそれがある。過去にはギリシャモーターバイク(二輪)協会に関しても欧州裁判所で判断が下されており、サッカー連盟(FIFA)の行為も支配的地位の濫用を理由に、EU競争法違反と判断されている。
さらにEU競争法だけでなく、加盟国競争法上の問題となる可能性もある。国際スケート連盟は既にドイツにおいて競争法上の問題を指摘されている。ドイツミュンヘンの高等地方裁判所は、他に同様の選手権を開催することができる組織がないため、国際スケール連盟が関連市場(特に世界スピードスケート選手権)で支配的地位にあると判断している。
欧州では、独占的な地位にあるスポーツ組織に対する競争当局の目は厳しくなってきているようである。選手の自由な活動を阻むような排他的内部規則や、同様のイベントを催すことができる団体が存在しないスポーツ分野などは、注意深い検討が必要となるかもしれない。
©Etsuko Kameoka 2015 All rights reserved.