経産省、「海外における外国公務員贈賄の摘発事例について」のページ開設
平成27年12月28日、経済産業省は、「海外における外国公務員贈賄の摘発事例について」のページを開設した。現在、米国のForeign Corrupt Practices Act(以下「FCPA」という。)に関する執行事例のうち、日本企業に参考になるものとして3事例を紹介している。
FCPAとは、ロッキード事件等を契機として1977年に制定された、外国公務員に対する贈賄行為を禁止する規定を含む米国の連邦法である。日本語では、海外腐敗行為防止法などと訳されている。米国の法律であるから、基本的には米国企業及び米国人が対象となり、米国の企業や個人が、商機や不適切な便宜を得るために、米国外の政府関係者・公務員に対し、賄賂や何らかの価値のあるものの支払の約束や申入れ、又は承認を助長するような行為が処罰の対象となる。
しかし、日本企業が適用の対象となる場合も比較的多く、①日本企業の現地(米国)法人、②株式または米国預託証券をNYSEやNASDAQに上場している日本企業とその関連子会社や代理人、③米国人を採用している日本企業、④米国内で贈賄行為の一部が行われたケース、⑤米国企業や米国上場企業と共謀した場合などが挙げられる。刑事罰としては、法人の場合は200万ドル以下の罰金、個人の場合は5年以下の禁錮若しくは25万ドル以下の罰金又はその併科であるが、法人・個人いずれの場合にも、違法行為により生じた利得又は損失の2倍を上限とする罰金が科されることがあり、過去に日本企業が多額の罰金を科されたケースも存在する。
なお、別表のとおり、英国及び中国にも類似する規定があるほか、日本の不正競争防止法にも外国公務員等に対する贈賄行為を禁止する規定があり(不正競争防止法18条)、犯罪行為の全部又は一部が日本国内で行われた場合が処罰の対象となり、日本人については、日本国外で犯罪行為を行った場合でも処罰の対象となる。
前記ページで紹介された事例には、米国企業の上海事務所に勤務していた者が、現地における不動産投資に関し、中国の政府機関の役職員に対して贈賄行為を行った事案について、当該行為者には、9カ月の禁錮刑や、民事上の制裁として約24万ドルの支払等が命じられたのに対し、当該企業については、同社が行為当時、従業員が贈賄行為を行っていないと合理的に信じるようなコンプライアンス体制を構築していたこと、米国司法省に違反行為を自主申告して調査に全面的に協力したことなどを考慮してFCPA違反に基づく執行をしないこととしたものがある。
一方で、ドイツ企業が、イラク等数国におけるプロジェクトに関して、外国公務員に対する贈賄行為を行ったとして、米国司法省に対し罰金4億5000万ドルを支払い、米国証券取引委員会に対し違法収益3億5000万ドルの返還に応じた事案もあり、この事案では、内部調査等に要した費用も1億ドルを超えている。
企業の従業員が、職務に関連して違法行為を行った場合、各国の法規制により、企業自体も刑事上又は民事上の責任を負う可能性があるのであり、企業は、従業員にそのような違法行為をさせないような体制や、違法行為を発見するための体制を構築する責務を負っている。
前記事例等から、グローバルに活動する大企業に対して適切なコンプライアンス体制の構築が求められていることは明らかであるが、外国公務員贈賄以外の事案であっても、企業における適切なコンプライアンス体制の有無は、当該企業の刑事責任を考慮する上で重要な情状事実になると考えられるから、同様の体制整備は、小規模な企業やローカルな企業にも求められていくものと考えられる。
以 上
米国FCPA | 英国UK Bribery Act 2010 | 中国「海外贈賄条項」 | |
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§ 78dd の禁止事項 米国の企業や個人が、商機や不適切な便宜を得るために、米国外の政府関係者・公務員に、金銭や何らかの価値のあるものの支払いの申し入れ、約束、または承認を助長するような行動を、直接的または間接的に行ってはならない。 |
セクション6 |
中華人民共和国刑法(2011年5月1日実施)第一百六十四条【非国家職員に対する贈賄罪】 ~略~不正な商業的利益を得るために、外国公務員または国際公共組織公務員に財物を供与した場合、前款の規定に照らして処罰する。~略~ |
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「国連腐敗防止条約」の第三章「犯罪化及び法執行」第十五条から第二十八条に準じる。 |
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§ 78dd の定義
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セクション7 (5)
英国で設立された企業で米国で事業または事業の一部を行っている企業。 |
日本企業を含めた多国籍企業は、中国企業と同様に、「刑法」第389条が規定する「不当な利益を得るために国家職員に”財物”を提供した人または組織」に対して、贈賄罪が適用される。 |