大阪労働局・京都労働局、違法な長時間労働、賃金不払い残業等で書類送検
岩田合同法律事務所
弁護士 荒 田 龍 輔
本件は、大阪労働局及び京都労働局が、株式会社フジオフードシステム(JASDAQ上場・フランチャイズを含め飲食店約700店を全国展開)において、同社経営の飲食店の従業員に違法な時間外労働等をさせたとして、同社及び関係役職員を大阪地方検察庁及び京都地方検察庁に書類送検したものである。
本件摘発の背景には、時間外労働の社会問題化を踏まえた厚生労働省の新たな対応方針の存在がある。
すなわち、厚生労働省は、平成27年4月、違法な長時間労働に起因する精神的疾患の社会問題化や労働時間データの改ざんのような悪質なケースに対応するための高度な捜査技術の必要性から、過重労働に係る専従対策班として、過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」といい、以下でも「かとく」と略称する。)を東京労働局(7名)と大阪労働局(6名)の2カ所に設置している。
「かとく」においては、長時間にわたる過重な労働が行われ、労働基準関係法令に違反し、または、違反する疑いがある事案であって、以下の①~③等に該当するもの(おおむね大規模・複雑な事案と考えられる。)について、積極的にかつ効率的な処理を行うものとされている。
①監督指導において事実関係の確認調査が広範囲にわたる事案
②司法事件で捜査対象が多岐にわたる事案
③被疑事実の立証等に高度な捜査技術を必要とする事案
「かとく」は、現時点までに、労働基準法違反の疑いで本件を含めた2件の書類送検を行っており、うち最初の1件は、東京労働局による平成27年7月の株式会社エービーシー・マートの違法な長時間労働に係る労働基準法違反容疑による同社自身並びにその人事担当役員1名及び従業員2名の東京地方検察庁への書類送検である。
これに続いて2件目となった本件で、株式会社フジオフードシステムは、同社経営の飲食店のうち、大阪府所在15店舗及び京都府所在2店舗において、一部の従業員に対して、①最長の者で平成26年3月1日から同年3月31日までの間で133時間31分(三六協定の限度時間1ヶ月45時間に対して、これを超えて76時間14分超えて労働させていた)時間外労働をさせたり、また、②法定の休憩時間を与えず、③時間外労働に対する法定の割増賃金を支払っていなかったとされる。
上記①~③の各点は、それぞれ、労働時間限度規制(労働基準法32条)、休憩時間の付与(同法34条)、割増賃金の支払い(同法37条)に係る法令に抵触する。株式会社フジオフードシステムは、過去に幾度となく監督指導(監督指導の一般的な流れは別紙のとおり)を受けたにもかかわらず改善がなされないとして、平成27年8月27日、同社自身、同社エリアマネージャー兼店長2名、同社エリアマネージャー1名及び同社店長13名が書類送検された。
本件では、月当りの時間外労働が100時間を超えており、書類送検という厳格な措置を執るに当たっては、この点が重視された可能性がある。すなわち、月100時間超の時間外労働があった場合、心臓疾患、脳疾患、精神疾患などの健康障害リスクが高まるとされており、株式会社エービーシー・マートに係る事案においても、「特に月100時間を超える長時間労働を問題視した」旨の担当官のコメントが報道された。昨年11月1日より過労死等防止対策推進法が施行され、政府としても過労死対策を強化する姿勢を見せていることも背景にあろう。
企業としては、適切な労務管理を誤れば、本件のように刑事手続に至る可能性があるのみではなく、莫大な割増賃金の支払[1]、事業者名の公表といった様々な不利益を被るおそれがある。さらに、割増賃金の支払や罰金の賦課によって会社に損害が生じたとして、善管注意義務違反に基づき、役員に対して責任追及(会社法第423条第1項等)がなされる事態にも発展しかねない。
企業においては、監督当局からの指導を受けないように適切な労務管理を行う必要があり、そのためには労働時間の管理体制を、専門家等と連携しつつ構築・改善していくことが何よりも重要であろう。
【監督指導の一般的な流れ】
[1] (株式会社フジオフードシステムは全社員に対する賃金未払い事案発生の有無を調査し、平成27年7月31日時点において2億6702万2936円を自主的に支払っている(http://v3.eir-parts.net/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=1283203)。