法のかたち-所有と不法行為
第十二話 有限性・不可逆性・経済外部性
法学博士 (東北大学)
平 井 進
2 自然災害と相隣関係
地球の表面は地殻の変動と表面の浸食を繰返しており、地球の時間から見て短期的には、その表面を変えているのは主として、大雨による河川氾濫、山の地滑り、火山噴火、地震による地形変化と津波などである。人間はその自然の中に住み、農耕をするにあたって、地表を人間の生活に都合がよいように作り変えているが(水路の変更、干拓、水・土砂の堤防など)、これらの営為は基本的に自然の動きに逆らっているので、風雨・地震・火山爆発等によって人間が作るものは常に破壊される。
人々は隣り合って住み、耕作しているので、自然災害においてその社会関係で問題となるのは、主として隣の土地からの地形・水流の変化等の迷惑という形になる。これが相隣関係である。古代ローマでは、十二表法(7, 8a)に由来して、雨水を排出する施設を撤去することを求めるアクティオ(actio aquae pluviae arcandae)があったが[1]、物の支配に関する内容でありつつ、不法行為的な対人アクティオの対象であった。[2]すなわち、今日的にいえば、当初から所有と不法行為は交錯していたのである。
今日でも、ドイツなどでは、大雨で流されて堆積した土砂を撤去することを不法行為の回復(ドイツの不法行為の本則は原状回復である)と見るか、所有権による妨害排除と見るかというような議論があるが[3]、本質的には同じことである。