◇SH0647◇企業内弁護士の多様なあり方(第17回)-仕事の形態(下) 山本雅子(2016/05/02)

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企業内弁護士の多様なあり方(第17回)

-第6 仕事の形態(下)-

野村證券法務部政策調査課

山 本 雅 子

第6 仕事の形態(下)

2 「弁護士としての専門性」VS「法務部門の一員」

 「弁護士としての専門性」VS「法務部門の一員」とは、企業内の法務部門で業務をする上で弁護士という資格を有していることが他の法務部員と比較した際に業務のやり方において何らかの違いを生じさせるかということである。

 ここでは、①資格のない法務部門の一員と比較して企業内で業務上の裁量について異なる場合があるか、②弁護士の固有業務である訴訟業務ができることが業務のやり方に影響を与えるのかという2点について検討する。

 (1) ①については、弁護士であるから法務部門内で業務の裁量が他の法務部員と比較して扱いが異なることはないと思われる。

 法務部門の業務においては当然法律知識が要求されるが、この法律知識は弁護士資格の有無によって決定されるものではない。若年層においては、同年齢の法務部門の社員と比べて業務上の裁量が大きいことはままあるが、それはあくまでも弁護士である以上、高度な法律知識を有しているという期待等によるものであり、弁護士資格の有無が決定的な要素とはなっていない。

 また、法務部門の業務には、司法試験の受験科目である民法や会社法以外の各種業法や行政・業界内の規制等に関する知識・判断が必須であり、これらの知識は当該企業・業界での経験により培われるところが大きく、弁護士資格を有していることが業務を遂行する上で決定的な利点とはなりえないの。実際、弁護士資格を有していても日常の業務でこれらの法律知識・判断に甘さがあれば、すぐに裁量が剥奪され他の法務部員と同様の扱いを受けることとなる。

 (2) ②については、当該企業が企業内弁護士に訴訟を担当させる意図を有しているか否かによって大きく左右される。当該企業が訴訟担当として弁護士を採用した場合、他の法務部員とは全く異なる分野に専従することとなり、また訴訟という業務の性質上、比較的単独、又は企業内弁護士によるチームで仕事をすることが多くなると思われる。

 しかし、当該企業に訴訟を担当させる意図がない場合、弁護士であり訴訟に精通しているという点は、他の特定の法分野に強みを有している法務部門の一員と同様の位置付けとなり、業務のやり方に直接的には重要な違いを与えるものではなくなる。また、訴訟業務に携わらない間に訴訟遂行のスキルは落ちてゆくものであり、弁護士会の研修等を利用して研鑽しなければ、一層その強みを活用することは難しくなるものと思われる。

(了)

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