◇SH1927◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(82)―企業グループのコンプライアンス⑮ 岩倉秀雄(2018/06/26)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(82)

―企業グループのコンプライアンス⑮―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、相談受付の範囲企業グループのコンプライアンス監査について述べた。

 組織にとって、従業員相談窓口は、組織自身が自浄作用を働かせてリスクを削減することにあるので、その受付範囲は、広範囲に設定する必要がある。

 企業グループのコンプライアンス監査は、監査役や内部監査部門とコンプライアンス部門がアンケート結果や従業員相談窓口等のリスク情報を共有して進める。

 コンプライアンス部門自身が自部門の施策の有効性・効率性を確認・検証する場合には、書面による監査ではなく、可能な限り実地監査を行うべきである。

 今回は、対境担当者の役割情報開示について考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑮:対境担当者の役割と情報開示】

9. 対境担当者の役割

 既述したが、対境担当者は、他組織との連結機能や境界維持機能を担っており、組織間関係の生成・展開は対境担当者の行動を通じて達成される。

 一般に、対境担当者は、組織内での地位や権限、専門能力の程度が高い者ほど影響力が大きい。

 その意味で、親会社の社長が子会社の社長に公式・非公式にコンプライアンスの遵守を指示する場合や、子会社の管理を所管する企画管理部門が企業グループ全体の経営方針・経営戦略の設定において、コンプライアンス重視の共通目標を打ち出せば、親会社のコンプライアンス重視の方針が企業グループ全体の重要な方針であると認識されやすい。

 一方、親会社と子会社のコンプライアンス担当役員やコンプライアンス担当部署同士の密接なコミュニケーションも重要である。

 経営トップレベルのコンプライアンス委員会の他に、親会社と子会社のコンプライアンス担当者会議を開催し、グループとしての方針・重点計画の進捗状況の確認、各社が抱える課題の抽出と共有化、従業員相談窓口に寄せられるテーマに対する問題認識と対応策の検討と確認、アンケート結果とそれに対する対応策に関する意見交換、近時のコンプライアンスに関する社会環境の変化や法改正の動きと企業グループとしての対応等、に関する情報と認識の共有化が、企業グループ全体へのコンプライアンスの浸透・定着を促進する。

 親会社から子会社に対する一方的指示ではなく、双方向コミュニケーションが、「やらされ感」の発生を避け、子会社が自分の問題として積極的に取り組むインセンティブを生むことになる。(子会社同士の情報・認識の共有化も促進される。)

 なお、「価値や理念に関わる複雑な課題は、定型的な問題の処理と異なり、単に紙に書かれたもの以外に情報が多義的であるほうが、対面による徹底した議論や素早いフィードバックが可能であり、理解が深まる」[1]とも言われているが、コンプライアンスやCSRの価値観の共有化もこれに該当すると思われる。

 その意味で、経営トップや担当役員の他に、監査役、内部監査部門、経営企画・管理部門、人事部門、総務部門等複数の部門が、コンプライアンスの重要性を伝えることが、子会社の認識を強化し受容性を高めるのに役立つ。

 以上の他に、親会社のコンプライアンス部門が自己研鑽に努め専門能力を高めることも、子会社への支援能力を高めその信頼を獲得することにつながるので重要である。

10. 情報開示

 近年、我が国では、経済・社会の成熟化が進み、特殊あるいは最先端の分野以外に、企業が提供する商品やサービスの差は少なくなってきていると思われる。

 そのため、企業への評価ポイントも、組織としてコンプライアンス(倫理・法令順守)経営を重視しているのか、環境や人権に配慮した経営を行っているのか、提供する製品のサービスの安全・安心は確保されているのか、従業員を大切にしているのか、消費者・ユーザー・サプライヤーに対する不正やごまかしはなく公正な取引を行っているのか、地域社会に貢献しているのか等、組織としての信用や社会の期待と要請に対するスタンスが重要になってきている。

 組織が、メディアへの露出を増やし、本業の財やサービスの良さをPRしても、不祥事により信用を損なえば、マイナスの評判がたちまちインターネット等により拡散し、組織の存続すら難しくなる時代である

 企業(グループ)は、一旦、情報開示を始めれば、後退はもはや許されない。

 近年、NGOやNPOによる企業評価が行われており、自社のコンプライアンスやCSRの取組を積極的にホームページ等で公開する企業の評価は、公開しない企業よりも高い。

 これまでは、企業の情報開示と言えば、投資家向けのIR(Investor Relations)の他に環境報告書やCSR報告書が中心になっていたが、近年は統合報告書[2]のように財務情報と非財務情報をセットで開示するケースも増えている。

 統合報告書を作成するためには、、企業(グループ)は、経営企画部門、コンプライアンス・CSR部門、広報部門、総務・人事部門等、関連部門が組織横断的に戦略として取り組む必要がある。

 

 次回は、最近話題になっているスポーツ組織のコンプライアンスについて、経験を踏まえて考察する。



[1] 山倉健嗣『組織間関係――企業間ネットワークの変革に向けて』(有斐閣、1993年)83頁

[2] 国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council=IIRC)は「国際統合報告フレームワーク」を開発し、2013年12月に公表した。組織が中長期にわたりいかにして企業価値を生み出そうとしているのかについて報告するための枠組み。
 従来の財務諸表掲載事項+水や空気・地域コミュニティといった、組織の価値創造に関わるさまざまな要素を考慮し、その中から重要な情報を簡潔にまとめ開示する。
 将来的には、統合報告を中心に経営者の解説、ガバナンスと報酬、財務諸表、サステナビリティレポートなど法定開示・自主開示の情報開示ツール・メディアを使い分け、情報の散乱・重複を解消することが期待されている。

 

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