冒頭規定の意義
―典型契約論―
はじめに ―課題の設定―(3)
みずほ証券 法務部
浅 場 達 也
3. 冒頭規定の要件の一定の安定性
第3の疑問点は、われわれの周囲に存在する典型契約の実例に関するものである。われわれが普段目にする契約書の実際の例を考えてみよう。そうした契約書には、請負契約・消費貸借契約など典型契約の名を持つ契約も多い。そして、典型契約の名が付された契約の内容をみると、その契約の成立要件が、それぞれの典型契約の「冒頭規定の要件に則った」ものであることが多い。
例えば、請負契約であれば、民法632条がその要件を「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」と定めているところ、実際の多くの請負契約書は、「甲は○○の仕事の完成を約し、乙はその仕事の結果に対して報酬を支払う」と定めている。「契約自由の原則」が貫徹されるなら、いくらか要件・内容の異なった請負契約書があってもよさそうなものであるが、あまり見かけない。冒頭規定の定める成立要件が、一定限度、遵守されているようにみえる。冒頭規定を学説が強行規定と解して来なかったにもかかわらず、社会の中で、冒頭規定の要件の安定性が一定の水準で保たれているといってもいいだろう。これは何故だろうか[1]。これが、冒頭規定をめぐる疑問点の第3点である。
以上の3つの疑問点について検討を加え、冒頭規定の意義を考えるとともに、それを踏まえて、契約法体系化及び典型契約論について若干の考察を加えること。これが本稿の課題である。