中国における外商投資企業の設立、変更等に関する制度変更について(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
1 新制度の概要(届出管理制度)
今月(2016年10月)より、中国の外商投資企業の設立、変更等に関する制度について、大きな変更があり、原則として、当局による審査認可は不要で、事後的な届出で足りることになった。
まず、今回、外国人又は外国法人が全部又は一部出資する会社(外商投資企業)について適用される外資企業法等(いわゆる三資企業法)が改正され、これまで審査認可事項とされてきた外商投資企業の設立、変更等については、別途規定される「外資参入に関する特別管理措置」が適用される一部の業界(いわゆるネガティブリスト)を除いては、一律「届出管理」が適用されることになり、従来必要とされていた審査認可機関(具体的には現地の商務部門)の審査認可は不要となった。上記外資企業法等の改正は、2016年9月3日の全国人民代表大会常務委員会で決定され、同年10月1日付けで施行された。
さらに、「届出管理」の具体的内容については、同月8日付けで、商務部から「外商投資企業の設立及び変更に係る届出管理に関する暫定弁法」(以下「届出弁法」)が公布され、同日施行された。他方、「外資参入に関する特別管理措置」(ネガティブリスト)については、同日、国家発展改革委員会と商務部の連名で公告が出された。上海自由貿易区等におけるネガティブリストのように具体的に業種を列挙する形の規定ではなく、外商投資産業指導目録(2015年修正版)における制限類及び禁止類並びに奨励類のうち持分又は高級管理職に関する要件が定められているものは引き続き審査認可の対象となり、また、外国投資家による非外商投資企業の買収についても、商務部の「外国投資家による国内企業の買収に関する規定」等の現行規定が適用され審査認可の対象となる旨が規定された。
また、新制度導入後における工商登記の扱いについては、国家工商総局から、9月30日に改正外資企業法等を踏まえ「外商投資企業の届出管理実行後の関連登記登録業務の実施に関する通知」が出されている。
なお、中国では、今のところ、すべての会社について適用される一般法としての会社法以外に、外商投資企業について外資企業法等の特別法(いわゆる三資企業法)も適用される構成になっているが、今回の法改正は上記構成を変えるものではない。しかし、この法体系は、現在パブリックコメント版が公開されている外国投資法が制定、施行された後には大きく変更される見込みとなっている。今回導入された届出管理制度は、パブリックコメント版外国投資法の大きな柱の一つであったが、今回の外資企業法等の改正と届出弁法は、この点を外国投資法に先駆けて導入するものと位置づけることもできる。外国投資法のもとでは、外国会社の出資する会社を含むすべての会社について組織法としては会社法のみが適用され、外資規制に関わる部分のみ外国投資法によって規制されるという構成に変更される予定であるが、同法の制定、施行時期は現時点では未定である。
2 実務への影響
今後の中国の外商投資企業に関する実務は新制度により大きく変更が見込まれる。今後の新規設立、買収プロジェクトにおいて、契約、定款の規定をどうするか、取引のスケジュールをどのように設定するかについて、最新の動向を踏まえた検討が必要である。
また、既存の合弁会社等における合弁契約、定款等についても、新制度への対応の必要性を検討することが適切であろう。
新制度については、実際の手続に関する当局の見解や運用がまだ明らかになっていないほか、安定した実務が定着するまでにはある程度の時間を要することが予想されるため、慎重な対応が必要である。