企業法務への道(16)
―拙稿の背景に触れつつ―
日本毛織株式会社
取締役 丹 羽 繁 夫
《「ときめきメモリアル」事件判決と半田正夫先生古稀記念論文集への寄稿》
「ときめきメモリアル」は、コナミにより、当初はPCエンジンSuper CD-ROM向けに発売され、その後1995年10月にPlayStation版が発売されるに及び大ヒットをブレークし、「恋愛シミュレーションゲーム」のジャンルを定着させた、同社にとっての記念碑的なゲームソフトである。このゲームは、ゲームユーザーが高校3年間を過ごすゲームの主人公を操作し、卒業式に意中の女性徒から愛の告白を受けられることを目指して、3年間の勉学や出来事、イベント等を通して愛の告白を受けるのにふさわしい能力(体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性及びストレスで構成される9種類のパラメータ)を備えるための努力を積み重ねるという恋愛シミュレーションゲームである。コナミが96年に提起したこの訴訟の争点は、本来低い値から始まる主人公のパラメータがゲーム開始当初より最高値から開始することができたり、卒業式間近のゲームシーンからゲームを開始することができるデータが格納されているメモリーカードを販売した被告に対して、コナミの有する同一性保持権の侵害に基づく同メモリーカードの販売差止めと損害賠償請求にあった。
私はこの訴訟の上告審の段階から担当した。第一審判決の大阪地判平成9年11月27日はコナミの請求を棄却したが、控訴審判決の大阪高判平成11年4月27日はコナミの主張を認めたので、被告が上告していた。2000年の秋頃であったか、最高裁より口頭弁論を開く旨の連絡があり、上告審では慎重の上にも慎重を期すべく、コナミの代理人をお願いしていた松田政行弁護士のご提案により、弁護団長として著作権法の大家である半田正夫先生(当時、青山学院大学学長)をお迎えした。幸い上告審では、「本件メモリーカードの使用は、本件ゲームソフトを改変し、被上告人の有する同一性保持権を侵害する・・・。けだし、本件ゲームソフトにおけるパラメータは、それによって主人公の人物像を表現するものであり、その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ、本件メモリーカードの使用によって、本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに、その結果、本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され、ストーリーの改変をもたらす」[1]からであるとして、コナミ側の主張が認められた。この判決は著作物についての同一性保持権を初めて認めた最高裁判決ともなった。
このようなご縁により、また松田弁護士のご推薦もあり、2003年に古稀を迎えられた半田先生の古稀記念論文集に寄稿することになった。拙稿「ゲームソフトの著作物性をめぐる判例の展開と考察」[2]は、我が国の判例がゲームソフトにどのような著作物性を認定してきたのかを跡付けたものである。以下では、我が国の判例が認定してきた「コンピュータ・プログラムの著作物性」、「映画の著作物性」及び「ゲーム映像の著作物性」について、各判例の要旨の部分を紹介するに留め、各事案の詳細については、それぞれの引用文献を参照されたい。
東京地判昭和57年12月6日(「スペース・インベーダー・パートII」事件、判時1060号18頁)では、ゲームソフトを起動させるプログラムはその記号語を機械語に変換した上でゲーム機のコンピュータ・システムの基板に取り付けられたROMに収納されていたが、このプログラムを他のゲーム機用のROMに収納した行為がそのプログラムの複製行為に当たるか否かが争われた。本判決は、「本件プログラムは、本件ゲーム内容を本件機械の受像機面上に映し出すことを目的とし、その目的達成のために必要な種々の問題を細分化して分析し、そのそれぞれについて解法を発見した上で、その発見された解法に従って作成されたフローチャートに基づき、専門的知識を有する第三者に伝達可能な記号語(アッセンブリ語)によって、種々の命令及びその他の情報として表現されたものであり、・・・右の解法の発見及び命令の組合せの方法においてプログラム作成者の論理的思考が必要とされ、また最終的に完成されたプログラムはその作成者によって個性的な相違が生じるものである・・・から、本件プログラムは、その作成者の独自の学術的思想の創作的表現であり、著作権法上保護される著作物に当たる」、と判示した。
本判決は、ゲームソフトをも含むソフトウェア・プログラムが著作権法上の著作物に該当するとして、その法的保護を認めた我が国初の判例となった。その後、コンピュータ・プログラムについては、昭和60年の著作権法改正により、最終的に明文の規定により「プログラムの著作物」として保護されるようになった(同法10条1項9号)。
東京地判昭和59年9月28日(「パックマン」事件、判時1129号120頁)では、被告が経営する多数の喫茶店にビデオゲーム機を設置して、パックマンと4匹のモンスターの追跡劇をテーマにしたアニメーション映画「パックマン」を上映していたことが、ゲーム機上のディスプレイに「パックマン」を表示したことになり、映画の上映に当たるか否かが争われた。即ち、ビデオゲームの内容を表現するソフトウェア・プログラムを電気信号の形でROMに収納し、CPUにより読み取らせることにより表示されるアウトプットそのものが、「スペース・インベーダー・パートII」事件で認定されたコンピュータ・プログラムとは別の「映画の著作物」に該当するか否かが争われた。
本判決は、著作権法10条1項7号に例示されている「映画の著作物」には、本来的な意味における「映画」のほかに、同法2条3項により、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」を含むとされているので、このような本来的な意味における「映画」以外の著作物が「映画の著作物」に該当するための要件として、以下の3つの要件を指摘した:
- ⑴ 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること;
- ⑵ 物に固定されていること;
- ⑶ 著作物であること。
その上で、本判決は、「著作権法が、劇場用映画とは全く取引実態を異にするものであっても、映画の著作物に該当する以上、上映権を認めるとの立場をとったものと解すべきで」あり、「ビデオゲームのソース・プログラムに言語の著作物性を認め、これをビデオゲーム機により実行して映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されているところを映画の著作物と認めることは、著作物性をとらえる観点が全く別個であるということを意味するにすぎ」ないとして、ゲームソフトについて初めて「映画の著作物性」を認定した。
「ときめきメモリアル」事件の控訴審判決である大阪高判平成11年4月27日(判時1700号129頁)では、ゲームソフトは「映画の著作物性」を有するというこれまでの判例の考え方をさらに発展させて、「ゲーム映像の著作物性」という考え方が導入されている。即ち、「本件ゲームソフトによって初めてゲームの進行が図られる点で、『映画の著作物』と『プログラムの著作物』が単に併存しているにすぎないものではなく、両者が相関連して『ゲーム映像』とでもいうべき複合的な著作物を形成している」、と判示した。本判決の打ち出した「ゲーム映像の著作物」という考え方は、前掲東京地裁「スペース・インベーダー・パートII」事件判決以来我が国の判例がゲームソフトを保護するために積み重ねてきた検討の到達点と評価することができる。