法務省、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び
家事事件手続法の一部を改正する法律」が施行
岩田合同法律事務所
弁護士 清 瀬 伸 悟
平成28年10月13日、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が施行された。
改正法は、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」とともに、衆議院内閣委員会の提案に基づき平成28年の通常国会で成立した議員立法であり、同法は同年5月13日に施行済みである。
改正法は、成年後見の事務がより円滑に行われるようにするため、成年後見人が家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛ての郵便物の転送を受けることができるようにするとともに、成年後見人が成年被後見人の死亡後にも行うことができる事務(死後事務)の内容及びその手続を明確化するため、民法の成年後見[1]に関する規定を改正し、これに伴って家事事件手続法の成年後見に関する審判事件の規定を改正するものである。
死後事務について、従前の規定では、成年後見人が行うことができる事務の範囲が必ずしも明確でなかったため、実務上、成年後見人が対応に苦慮する場合があるとの指摘がなされていた。改正法では、個々の相続財産の保存に必要な行為、弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等ができることとされた。
改正がなされた背景には、前記のとおり改正法とともに提案され成立した「成年後見制度の利用の促進に関する法律」の名称にあるように、成年後見制度の利用促進を図ることがあると考えられる。同法は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理や日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資すること及び成年後見制度がこれらの者を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていないことに鑑み、成年後見制度利用促進会議[2]及び成年後見制度利用促進委員会[3]を設置すること等により、成年後見制度の利用の促進に関する施策を推進することを目的とする(同法1条)。
同法の成立を受けて、内閣府には成年後見制度利用促進に関するサイト[4]が開設され、既に成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進委員会が設置されている。
下図のとおり、保佐、補助及び任意後見を含む成年後見制度は増加傾向にあるが、保佐、補助及び任意後見の利用が低調であること、認知症、知的障害、精神障害等の対象者数の数に比べて成年後見制度の利用者数が少ないことが問題視されている。
成年後見制度の利用促進には、法務省、厚生労働省、裁判所等の関係各機関の連携が必要になると考えられることから、成年後見制度利用促進会議等によって連携が強化されることにより、今後の成年後見制度の利用促進に向けた制度改正が行われていくものと考えられる。
以 上
[1] 改正の対象は、民法の成年後見の規定のみであり、保佐、補助、任意後見及び未成年後見の規定は対象外である。
[2] 内閣総理大臣を会長とし、内閣官房長官、法務大臣、厚生労働大臣及び総務大臣等を委員とする。
[3] 委員は、成年後見制度に関して優れた識見を有する者から内閣総理大臣が任命することとされている。