◇SH0952◇中小事業者の取引条件の改善に向けた下請法等の運用強化の動き(2017/01/05)

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中小事業者の取引条件の改善に向けた下請法等の運用強化の動き

――下請法運用基準、下請中小企業振興基準、下請代金の支払手段についての見直し

 

1 下請法運用基準の改正

 公正取引委員会は12月14日、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)を改正した。

 下請等中小事業者の取引条件の改善に向けた下請法等の運用強化については、「未来への投資を実現する経済対策」(8月2日)、「未来志向型の取引慣行に向けて」(9月15日)等に盛り込まれていたところである。その取組みの一環として公取委では、親事業者による違反行為の未然防止や事業者からの下請法違反行為に係る情報提供に資するよう、違反行為事例の充実等を内容とした「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正を行ったものである。

 今回の運用基準の改正では、以下のような違反行為事例が現行の66事例から141事例に大幅に追加された。

  1. ○ 公正取引委員会による勧告・指導の中で、繰り返し見受けられた行為、事業者が問題ないと認識しやすい行為等を追加
  2.  •  下請代金の額から一定額を差し引くことによる「減額」=コンビニエンスストア本部である親事業者は、消費者に販売する食料品の製造を下請事業者に委託しているところ、店舗において値引きセールを実施することを理由に、下請代金から一定額を差し引いて支払った。
  3.  •  支払制度の不備による「支払遅延」=親事業者は、自動車部品の製造を下請事業者に委託しているところ、毎月25日納品締切、翌々月5日支払の支払制度を採っているため、下請事業者の給付を受領してから60日を超えて下請代金を支払っていた。
     
  4. ○ 中小企業庁等と共同で実施した大企業ヒアリングで得られた情報等を基に追加
  5.  •  合理性のない定期的な原価低減要請による「買いたたき」=親事業者は、親事業者の取引先と協議して定めた「○年後までに製品コスト○%減」という自己の目標を達成するために、部品の製造を委託している下請事業者に対して、半年毎に加工費の○%の原価低減を要求し、下請事業者と十分な協議をすることなく、一方的に通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた。
  6.  •  量産品と同単価で補給品を発注することによる「買いたたき」=親事業者は、下請事業者に製造を委託している部品について、量産が終了し、補給品として僅かに発注するだけで、発注数量が現状大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価により通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた。
  7.  •  型・治具の無償保管の要請(不当な経済上の利益の提供要請)=親事業者は、機械部品の製造を委託している下請事業者に対し、量産終了から一定期間が経過した後も金型、木型等の型を保管させているところ、当該下請事業者からの破棄申請に対して、「自社だけで判断することは困難」などの理由で長期にわたり明確な返答を行わず、保管・メンテナンスに要する費用を考慮せず、無償で金型、木型等の型を保管させた。
  8.  •  労務の無償提供の要請(不当な経済上の利益の提供要請)=親事業者は、貨物運送を委託している下請事業者に対し、当該下請事業者に委託した取引とは関係のない貨物の積み下ろし作業をさせた。
     
  9. ○ 違反行為の未然防止等の観点から、特に留意を要する違反行為類型を追加
  10.  •  引下げ後の新単価を発注済みの取引に遡及適用する場合の「減額」=親事業者は、自動車等の部品の製造委託に関し、単価引下げの合意前に発注した部品について引下げ後の単価を遡って適用することにより、引下げ前の単価を適用した額と引下げ後の単価を適用した額との差額に相当する額を差し引いて下請代金を支払った。
  11.  •  燃料費高騰や労務費上昇分等を一方的に据え置く場合の「買いたたき」=親事業者は、親事業者から下請事業者に対して使用することを指定した原材料の価格や燃料費、電気料金といったエネルギーコスト、労務費等のコストが高騰していることが明らかな状況において、下請事業者から従来の単価のままでは対応できないとして単価の引上げの求めがあったにもかかわらず、下請事業者と十分に協議をすることなく、一方的に、従来どおりに単価を据え置くことにより、通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた。
     
  12. ○ 事業者が下請法の対象となる取引でないと誤認しやすい取引の例を追加
  13.  •  建設業者が施主から作成を請け負う建築設計図面の作成を建築設計業者に委託する場合(情報成果物作成委託)
  14.  •  アニメーション制作業者が製作委員会から制作を請け負うアニメーションの原画の作成を個人のアニメーターに委託する場合(情報成果物作成委託)

2 振興基準の改正

 中小企業庁は、同日、「下請中小企業振興法第3条第1項の規定に基づく振興基準」の改正(平成28年経済産業省告示第290号)を行った。

 改正内容をみると、親事業者は、生産性の向上または製品の品質等の改善に努める下請事業者が、そのための措置を円滑に進め得るよう、以下に掲げる取組みをはじめ、必要な協力をするよう努めるものとしている。

  1.  •  親事業者は下請事業者との面談、事業所や工場の訪問、研究会の開催に努めること。
  2.  •  下請事業者の改善に必要な知見を提供可能な担当者やチームの設置など、協力の体制を確立すること。
  3.  •  課題が親事業者の定める設計、仕様、基準、発注方式等に関わる場合には、親事業者の関係部署やサプライチェーン全体が連携をして対応すること。

 また、親事業者は、原価低減要請をするとき、経済合理性や十分な協議を欠いた要請はしないこととしている。取引対価の見直し要請があった場合には、人手不足や最低賃金の引上げなどによる労務費の上昇について、その影響を反映するよう協議することとしている。

 金型、木型などの型の保管に関しては、双方が十分に協議し、方法や費用負担を明確に定めることとし、親事業者の事情によって下請事業者にその保管を求めている場合には、親事業者が費用を負担することとしている。

 下請代金の支払いは可能な限り現金で行うこととし、手形やファクタリングなどによる場合は、割引料を下請事業者に負担させることがないようにすること、手形サイトは120日(繊維業においては90日)を超えてはならないことは当然として、将来的に60日以内とするよう努めることとしている。

 さらに、業種別下請ガイドラインやサプライチェーン全体の取引適正化に向けた自主行動計画を振興基準に位置づけ、親事業者、下請事業者ともに下請ガイドラインを守ること、親事業者は下請ガイドラインの内容に即して、マニュアルや社内ルールを整備し、自社の調達において徹底させることとしている。

 

3 下請代金の支払手段について

 また、下請代金の支払手段についての通達の見直しに関して、全国約21万社の親事業者および約870の業界団体に対して、中企庁長官と公取委事務総長連名で、下記のような通達(20161207中第1号・公取企第140号)を同日に発出した。

  1.  •  下請代金の支払いは、できる限り現金によるものとすること。
  2.  •  手形等により下請代金を支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者に負担させることがないよう、下請代金の額を十分に協議して決定すること。
  3.  •  下請代金の支払いに係る手形等のサイトは120日(繊維業は90日)を超えてはならないことは当然として、段階的に短縮に努めることとし、将来的に60日以内とするよう努めること。

 

4 関係事業者団体への要請等

 なお、中企庁と公取委では、12月20日付けで経産相(他省庁所管の業界については主務大臣と連名)および公取委委員長との連名で、業界団体(約870団体)に、当該団体に所属する親事業者への今般の改正内容の周知徹底、法令遵守に向けた社内体制の整備等を指導するよう要請を行っている(20161212中第4号・公取企第144号)。政府としては、今後とも、各種の調査等を通じて、こうした取組みの進捗状況を確認しながら、必要な措置を講じていくこととしている。

 

  1. 公取委、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正について(12月14日)
    http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161214_1.html
  2. 中企庁、下請等中小企業の取引条件改善のため、振興基準の改正、通達の見直しを行いました(12月14日)
    http://www.meti.go.jp/press/2016/12/20161214002/20161214002.html
  3. 公取委、下請代金の支払手段について(12月14日)
    http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161214_2.html
  4. 公取委、下請等中小企業の取引条件の改善に向けて(12月20日)
    http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161220.html
  5. 中企庁、下請等中小企業の取引条件の改善に向けて、親事業者等に要請します(12月20日)
    http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2016/161220Shitauke.htm

 

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