◇SH1014◇実学・企業法務(第24回) 齋藤憲道(2017/02/13)

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実学・企業法務(第24回)

第1章 企業の一生

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

(3) 物(モノ)

4) 工場
 工場建設では多額の資金が投入され、企業の将来の経営に大きな影響を与えるので、生産品目・規模・生産能力等の検討を入念に行い、新工場が業界最高水準になるようにする。特に、装置産業の場合は商品設計で競争力を挽回することが難しく、新工場の生産性が他社に劣ると、経営上の致命傷になる。

 ⑴ 用地選定
 工場用地の選定は、用地の規模・地盤の強度・災害リスク、電力・水・通信等のインフラの整備状況、労働力確保(通勤手段を含む)、原材料の調達、市場への製品供給、規制法令(建設時、操業時)等を総合的に勘案して行う。

 ⑵ 安全と機能の確保
 工場棟の設計は、工場内のレイアウト、材料・仕掛品・完成品の移動・搬送、情報の伝達方法、エネルギーの供給方法、排出物・廃棄物等の処理方法、安全かつ経済的で調和のとれた構造物であること等について十分に検討し、安全で、働き易く、生産性が高くなるようにする。
 建物を建てるには、建築基準法・消防法・その他の安全や環境に関する法令[1]を遵守しなければならない。地震等の天災対応・良好な景観形成・暮らしやすい住環境保全等を義務付ける建築基準は、国・地域・地方によって異なるので、地元の所管行政機関や専門家の指導・助言を得ることが必要である。
 特に、新設する工場等に震動・大気汚染・水質汚濁・悪臭等の発生の恐れや風評がある場合は、着工までに近隣の住民及び行政機関等に対して、想定されるリスクとその対応策を十分に説明し、被害が出ないように努めるだけでなく、万一、環境悪化が発生した場合の情報提供方法及び対応体制について事前に合意することが望まれる。

  1. 〔環境保全・公害防止の協定〕
    事業活動にともなう環境負荷を低減し、近隣住民の健康保護と環境保全を図ることを目的として、都道府県・地元の市町村・企業の三者間で環境保全協定や公害防止協定を締結し、その中で法令を補完する厳しい基準等を定める例も多い。

 なお、工場・倉庫・展示場等が、税関長が許可(又は、財務大臣が指定)した保税地域[2]の場合は、同地域内の貨物が本邦領土内になく、外国貨物として取り扱われていることに留意し、税関長による許可・承認等の条件に従って生産・販売活動を行う。

 ⑶ 建築物の維持管理
 建築物の維持管理は、法令に従って行う。

(a) 建築基準法
 エレベータ・エスカレーターの保守は、検査の項目・方法・判定基準が法令[3]で詳細に定められ、一級建築士・二級建築士・昇降機検査資格者等の国家資格保有者が行うことが義務付けられている。このため、維持管理を専門のメンテナンス業者に依頼する例が多い。

(b) 消防法
 火災リスク(発生の危険性、発生時の拡大危険性、消火の困難性)が大きい物品を危険物[4]に指定し、貯蔵・取扱い・運搬方法等が規制されている。危険物施設の位置・構造・設備については全国統一の技術基準が定められ、一定量以上の危険物は原則として市町村長等の許可を得た危険物施設以外では貯蔵・取扱いできない。
 建物等が法定の防火対象物の場合は、消防用設備(自動火災警報器、スプリンクラー・消火器、誘導灯・避難器具、連結送水管・排煙設備等)等を消防設備士[5]等が定期的に点検し、その結果を消防署長等に報告する[6]

(c) 建築物衛生法[7]
 多数の者が使用・利用し、かつ、環境衛生上特に配慮が必要とされる法定の相当規模の建築物(興行場・百貨店・店舗・事務所・学校等)について、衛生的・快適に使用できるよう、建物の所有者又は占有者等が建築物環境衛生管理基準に従って維持管理し、ビル管理技術者[8]を選任して監督させることを義務付けている。保健所に対して所定の届出[9]を行う。

 


[1] 例えば、毒物及び劇物取締法、高圧ガス保安法、液化石油ガス保安法

[2] 保税地域には、指定保税地域・保税蔵置場・保税工場・保税展示場・総合保税地域の5種類がある。関税法29条、37条、42条、56条、62条の2、62条の8

[3] 建築基準法8条(保守点検)、12条(定期検査)。検査の項目・方法・判定基準は、平成20年国土交通省告示第283号。

[4] 消防法2条7項

[5] 消防法に基づく国家資格

[6] 消防法17条の3の3

[8] 建築物環境衛生管理技術者(国家資格)の通称

[9] 都道府県知事又は保健所設置市長・特別区長宛の届出

 

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