消費者契約法専門調査会のポイント(第23回)
森・濱田松本法律事務所
弁護士 須 藤 克 己
平成27年12月11日、内閣府消費者委員会において、第23回消費者契約法専門調査会が開催された。以下、その概要を報告する。なお、本報告において、意見に亘る部分は、すべて報告者の私見である。
1.配布資料
以下の資料が配布された。
配布資料
資料1 個別論点の検討(11)(消費者庁提出資料)
資料2 山本健司委員提出資料
2.議事内容
事務局から、資料1に基づいて、以下の個別論点に関する説明があり、審議が行われた。
・不当勧誘行為に関するその他の類型
・損害賠償額の予定・違約金条項(第9条第1号)
・消費者の利益を一方的に害する条項(第10条)/不当条項の類型の追加
・条項使用者不利の原則
3.審議の主な内容
(1)不当勧誘行為に関するその他の類型
- (ア) 困惑類型の追加
- ・ 事務局から「執拗な電話勧誘についての規律を困惑類型に追加することについては、特定商取引法専門調査会において別途検討されている電話勧誘販売の勧誘の在り方に関する議論の結果と共に、今後の特定商取引法の見直し及び運用の状況を踏まえた上で、必要に応じて検討することとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、委員から特に異論はなかった。
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・ 事務局から「威迫による勧誘についての規律を困惑類型に追加することについては、引き続き、裁判例や消費生活相談事例を収集・分析して検討することとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、複数の委員から威迫による勧誘については現段階で議論すべきではないかとの意見があったが、他方、適用される場面の特定・検証ができておらず継続審議すべきとの意見もあった。審議の結果、事務局提案のとおり、威迫による勧誘については今後も継続的に審議することとなった。
- (イ) 不招請勧誘
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・ 事務局から「不招請勧誘についての規律を設けるか否かについては、特定商取引法専門調査会において別途検討されている訪問販売及び電話勧誘販売における勧誘の在り方に関する議論の結果と共に、今後の特定商取引の見直し及び運用の状況を踏まえた上で、必要に応じて検討することとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、委員から特に異論はなかった。
- (ウ) 合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型
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・ 事務局から「事業者が、客観的に過量契約(事業者から受ける物品、権利、役務等の給付がその日常生活において通常必要とされる分量、回数又は期間を著しく超えることとなる契約)に該当するにもかかわらず消費者がそのことを認識していないということを知りながら、当該消費者に対して当該過量契約の締結について勧誘し、それによって当該過量契約を締結させたような場合に、取消し又は解除によって契約の効力を否定することを認める規定を設けることとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、複数の委員から特定商取引法第9条の2との要件の整合性や効果(取消しなのか解除なのか)に対し再度整理を求める意見があったため、次回、要件・効果を再度整理の上検討することとなった。なお、一部の委員から、要件について「客観的に過量契約に該当するにもかかわらず消費者がそのことを認識していないということを知りながら」の部分を「過量な契約を必要とする特段の事情が消費者にないことを知りながら」に修正してはどうかとの意見があった。
(2)損害賠償額の予定・違約金条項(第9条第1号)
- (ア) 「解除に伴う」要件の在り方
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・ 事務局から「「解除に伴う」要件の在り方については、早期完済条項や明渡遅延損害金を定める条項を法第9条第1号によって規律することの適否を中心に、引き続き検討するのが適当ではないか。」との提案があった。これに対し、委員から、特に異論は聞かれなかった。
- (イ) 「平均的な損害の額」の立証責任
- ・ 事務局から、「最高裁判決は、消費者が「平均的な損害の額」の立証責任を負うとしつつ、「事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には」という留保を付けていることを踏まえ、引き続き、裁判例・消費生活相談事例を収集・分析して検討するのが適当ではないか。」との提案があった。これに対し、委員から、裁判例を参照するだけでなく訴訟記録や裁判官・訴訟当事者へのヒアリングをすべきではないかとの意見もあったが、大きな異論は聞かれなかった。
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・ 事務局から、「法第3条第1項の趣旨に照らし、事業者と消費者との間で「平均的な損害の額」が問題となった場合には、事業者は消費者に対して必要な情報を提供するよう努めなければならないことを逐条解説等において記載することとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、委員から法第3条第1項が努力義務であることとの整合性について示唆があり、さらに、他の委員から逐条解説は一省庁の行う解説であり本調査会がこれに言及することに違和感がある旨の意見もあった。その他、委員から大きな異論はなかった。
(3)消費者の利益を一方的に害する条項(第10条)/不当条項の類型の追加
- ・ 事務局から「債務不履行の規定に基づく解除権又は瑕疵担保責任の規定に基づく解除権を放棄させる条項を例外なく無効とする規定を設けることとし、これに加えて、更に他の契約条項の類型について例外なく無効とする規定を設けるべきか否かについては、引き続き、事例を収集・分析して検討することとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、委員から大きな異論はなかったが、国民生活センター理事長から「例外なく無効」とする場合に法第8条第2項に該当する規定を設ける必要はないかとの意見があり、事務局で検討することとなった。
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・ 事務局から「法第10条前段に該当する消費者契約の条項の例示として、消費者の不作為をもって当該消費者が新たな契約の申込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項を挙げることとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、委員から消費者の不作為をもって当該消費者が新たな契約の申込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項を第10条前段の例示とすること自体或いは例示を1つだけ置くことに対する違和感を述べる意見や、今後の審議において法第10条の文言修正を検討すべきとの意見等があった。
(4)条項使用者不利の原則
- ・ 事務局から「条項使用者不利の原則については、要件や適用範囲等を更に検討しつつ、あわせて、逐条解説の法第3条の解説等において、条項の明確性に係る事業者の努力義務(法第3条第1項)に違反した場合において生じ得る効果に関する考え方の一つであることや、同原則を用いたとの評価もされている裁判例があることを紹介することとしてはどうか。」との提案があった。これに対し、委員から資料1に載っている大阪高判平成12年2月10日判タ1053号234頁については特殊な事案と考えるので他の事案も参照すべきではないかとの意見があった。また、消費者委員会委員長から、条項使用者不利の原則は世界中でルール化されていることの示唆があった。
4.その他
次回開催予定:未定(追って事務局から委員へ連絡)
以上