◇SH1051◇金融庁、適格機関投資家等特例業務届出者に対する行政処分について 鈴木正人(2017/03/07)

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金融庁、適格機関投資家等特例業務届出者に対する行政処分について

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 正 人

 金融庁は、2017年2月24日、関東財務局長が適格機関投資家等特例業務届出者のうち、営業所等を確知できないなど連絡が取れない業者(9者)及び必要な届出書の提出を遅延した業者(8者)に対して行政処分を行ったことを公表した(詳細は、関東財務局のウェブサイトを参照)。

 

 適格機関投資家等特例業務届出者(以下「特例業務届出者」という。)は、主として適格機関投資家を相手に集団投資スキーム持分の自己私募(金融商品取引法(以下「法」ともいう。)2条8項7号)と自己運用(同条項15号)を行うものである。

 当該持分の自己私募や自己運用を業として行うためには、原則として第二種金融商品取引業や投資運用業の登録が必要であるが(法28条2項1号、4項3号)、利用者保護と金融イノベーションの阻害防止の観点から、法は、適格機関投資家の出資などの所定の要件を満たす場合について金融商品取引業の登録は不要とし、届出で足りるとのプロ向けファンドの特例を設けた(法63条、当該制度を以下「特例届出制度」という。)。

 金融商品取引法の施行に当たっては、プロ向けファンドの組成や運用での特例届出制度の活用が想定されていたが、49名以下であれば適格機関投資家でない一般投資家や高齢顧客も出資が可能であったこともあり、当該制度による投資者被害が増加した。また、金融当局は特例業務届出者に対しては報告徴求命令等を行うことはできたが、業務改善命令、業務停止命令などの行政処分を課すことはできなかった。

 そこで、2015年金融商品取引法改正において、プロ向けファンドへの出資要件の厳格化、届出事項の充実、金融当局への特例業務届出者に対する行政処分権限の付与などの特例届出制度に関する改正が行われ、2016年3月1日に施行された。主な改正点は下図のとおりである。なお、同改正では、既存の特例業務届出者に対しても、同年8月31日までに財務(支)局に対して改正法に対応した内容を記載した届出書面を提出することが要求された。

 特例業務届出者に対する監督上の処分としては、業務改善命令、業務停止命令、業務廃止命令がある(法63条の5第1項乃至3項)。業務改善命令については法令違反や行政処分違反がなくても課される可能性がある。

 関東財務局長は、2016年10月14日、同月7日付の証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)による勧告を踏まえて無登録で投資運用業を営んだことなどを理由に特例業務届出者(東京アジアレプラカン株式会社)に対して初めて業務廃止命令と業務改善命令を下した。さらに、同月21日には、全国の財務(支)局長が、営業所等の変更届出書を提出せず、当局が営業所等を確知できない状況や改正法で提出が義務付けられている届出書を提出していない状況があったとして計379者の特例業務届出者(海外所在者も含む。)に対して業務廃止命令と業務改善命令を下した。当該処分は、証券監視委による勧告を経ておらず、証券監視委や財務(支)局の検査に基づくものではないと思われる。その後も、財務(支)局長は、特例業務届出者に対して行政処分を課している。

 2017年2月24日に特例業務届出者に対して課された行政処分のうち、連絡が取れない業者に関するものは基本的に2016年10月14日付処分と同様の内容である。一方で、必要な届出書の提出を遅延した業者に関するものは、期限後に追加届出書を提出したことを理由に業務改善命令のみが下された。必要な届出書の提出遅延を理由とする処分は今回が初めてであるが、今後は、書面提出遅延や行為規制違反などを理由に特例業務届出者に対する行政処分が課される可能性もあろう。特例業務届出者は、行為規制の遵守、法定帳簿の作成・保存、事業報告書の作成・提出などの対応を行う重要性が増している。

 

2015年金融商品取引法改正の主な概要

概要

特例届出の届出事項・添付書類の拡充等

特例業務届出者に対する行政処分権限の付与

プロ向けファンドの出資要件の厳格化

特例業務届出者の行為規制の拡充、帳簿書類の作成・保存の新設、事業報告書・説明書類の新設

特例業務制度に関する罰則の強化・新設

 

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