◇SH3405◇最一小判 令和2年3月26日 地方自治法251条の5に基づく違法な国の関与(裁決)の取消請求事件(深山卓也裁判長)

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 公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認と行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」

 公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認は、国の機関が行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない。

 地方自治法245条3号、251条の5第1項、行政不服審査法7条2項、公有水面埋立法42条1項

 令和元年(行ヒ)第367号 最高裁令和2年3月26日第一小法廷判決 地方自治法251条の5に基づく違法な国の関与(裁決)の取消請求事件 上告棄却(民集74巻3号471頁)

 原 審 令和元年(行ケ)第2号 福岡高裁那覇支部令和元年10月23日判決

1 事案の概要

 沖縄防衛局は、沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立て(以下「本件埋立事業」という。)につき、同県知事から公有水面埋立法42条1項の承認(以下「本件埋立承認」という。)を受けていたが、事後に判明した事情等を理由として本件埋立承認が取り消されたことから(以下、この取消しを「本件埋立承認取消し」という。)、これを不服として国土交通大臣に対し行政不服審査法に基づく審査請求をしたところ、同大臣は、本件埋立承認取消しを取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。本件は、X(沖縄県知事)が、本件裁決は違法な「国の関与」に当たると主張して、地方自治法251条の5第1項に基づき、Y(国土交通大臣)を相手に、本件裁決の取消しを求めた事案である。

 

2 法令の定めの概要

(1)ア 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する「国の関与」に不服があるときは、国地方係争処理委員会に対し、当該国の関与を行った国の行政庁を相手方として、審査の申出をすることができ(地方自治法250条の13第1項)、同委員会の審査の結果又は勧告に不服があるときは、高等裁判所に対し、当該行政庁を被告として、訴えをもって当該審査の申出に係る違法な「国の関与」の取消しを求めることができる(同法251条の5第1項1号)。

 イ 上記「国の関与」とは、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち国の行政機関が行うものをいうとされているが(地方自治法250条の7第2項)、同法245条3号括弧書きにより、「審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為」(以下「裁決等」という。)は上記関与から除かれている。

 行政不服審査法に基づく審査請求に対する裁決がこの裁決等に含まれることは明らかである。もっとも、同法7条2項は、国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関(以下「国の機関等」という。)に対する処分で、国の機関等がその「固有の資格」において当該処分の相手方となるものについては、同法の規定は適用しない旨を規定している。

(2) 一般に、公有水面の埋立て(以下「埋立て」という。)をしようとする者は、都道府県知事の免許(以下「埋立免許」という。)を受けるべきものとされている(公有水面埋立法2条1項)。これに対し、国において埋立てをする場合については、これを実施する機関において都道府県知事の承認(以下「埋立承認」という。)を受けるべきものとされ(同法42条1項)、埋立免許に係る規定の一部が準用されている(同条3項)。なお、埋立免許及び埋立承認に係る事務は、いずれも法定受託事務に当たる(地方自治法別表第一)。

 

3 事実関係の概要

(1) 沖縄防衛局(防衛省の地方支分部局)は、平成25年3月22日、当時の沖縄県知事に対し、公有水面の埋立て(本件埋立事業)の承認を求める出願をしたところ、同知事は、同年12月27日、本件埋立承認をした。

(2) 前沖縄県知事は、平成27年10月13日、原始的な瑕疵を理由に本件埋立承認を取り消したが、当該取消しを取り消さないことを違法とする判決(最二小判平成28・12・20民集70巻9号2281頁)を受けて、同28年12月26日、当該取消しを取り消した。

(3) 前沖縄県知事の死亡により沖縄県知事の職務代理者となった副知事から事務の委任を受けた他の副知事は、平成30年8月31日、承認後に判明した事情によれば本件埋立事業は公有水面埋立法4条1項1号及び2号の各要件に適合していないこと、承認の附款である留意事項に沖縄防衛局が違反していること等を理由として、本件埋立承認取消しをした。

(4) 沖縄防衛局は、本件埋立承認取消しに不服があるとして、平成30年10月17日、行政不服審査法2条、地方自治法255条の2第1項1号に基づき、公有水面埋立法を所管する大臣であるYに対し、審査請求をした。Yは、平成31年4月5日付けで、本件埋立承認取消しは違法かつ不当であるとして、これを取り消す旨の本件裁決をした。

(5) 現沖縄県知事であるXは、本件裁決は「国の関与」に当たるものであり、これに不服があるとして、平成31年4月22日付けで、地方自治法250条の13第1項に基づき、国地方係争処理委員会に対し、審査の申出をした。同委員会は、令和元年6月17日付けで、本件裁決は「国の関与」に当たらず同委員会の審査の対象とならないから、上記審査の申出は不適法であるとして、同申出を却下する旨の決定をした。

(6) Xは、上記決定に不服があるとして、令和元年7月17日、福岡高等裁判所那覇支部に対し、地方自治法251条の5第1項に基づく「国の関与」の取消しの訴えとして、本件訴えを提起した。

 

4 訴訟の経過

(1) Xは、本件埋立承認取消しは国の機関である沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となった処分であるから、行政不服審査法の適用が除外され、これに対してされた本件裁決は成立に瑕疵があり、「国の関与」から除かれる裁決等には当たらないとして、本件裁決は「国の関与」に当たりかつ違法である旨主張した。

 しかし、原審は、本件埋立承認取消しは沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となった処分とはいえないとして、本件裁決は「国の関与」から除かれる裁決等に当たるものと認め、本件訴えを不適法として却下した。

(2) Xが上告受理の申立てをしたところ、最高裁第一小法廷は、上告を受理した上、判決要旨のとおり判示して、本件埋立承認取消しは沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となった処分とはいえないとした原審の判断を是認し、上告を棄却した。

 なお、Xは、原審において、本件裁決の瑕疵として、①審査庁の誤り及び②審査庁の権限濫用も主張したが、原審はいずれも認めなかった。このうち①に関する上告受理申立て理由は上告受理の決定において排除され、②については上告受理申立て理由とされなかった。そのため、これらの点は本判決の判断の対象外である。

 

5 説明

(1) 問題の所在

 ア 地方自治法第11章第1節は、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与等について規定し、同章第2節は、その関与に関する紛争処理制度等について規定している。本件においてXが提起した違法な「国の関与」の取消しを求める訴え(同法251条の5第1項)は、その紛争処理制度の一つとして設けられたものであり、機関訴訟として位置付けられている(同条8項参照)。

 「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」の意義については、地方自治法245条が規定するところ、同条3号括弧書きにより、裁決等を含むいわゆる裁定的関与が除外されている。これは、裁定的関与は紛争解決のための準司法的な手続であって、別の法律で根拠及び手続が定められているのが通常であり、更に地方自治法上の関与に係る紛争処理制度の対象とすると、当事者を不安定な状態に置き、紛争解決を不必要に遅延させるおそれがあるためであると解されている。

 そのため、本件裁決が裁決等に該当するとすれば、本件裁決は「国の関与」から除外され、地方自治法251条の5第1項の訴えの対象とはならず、本件訴えは不適法ということになる。

 イ 沖縄防衛局は、本件埋立承認取消しにつき、行政不服審査法に基づくものとして審査請求をし(本件埋立承認取消しは法定受託事務に係る処分であることから、地方自治法255条の2第1項1号によりYが審査庁とされた。)、Yはこれに対して本件裁決をしたものである。本件裁決が行政不服審査法に基づく審査請求に対する裁決に当たるとすれば、本件裁決は裁決等に該当し、「国の関与」から除外されることになる。

 もっとも、行政不服審査法7条2項の規定によれば、同法上、国の機関等が「固有の資格」において相手方となる処分に対して審査請求がされ、これに対する応答として何らかの裁決がされることは予定されていないから、そのような処分について、同法に基づくものとして審査請求及び裁決がされたとしても、当該裁決は、同法に基づく審査請求に対する裁決とはいえず、「国の関与」から除かれる裁決等には当たらないというべきである。本判決は、このように解して、本件訴えの適法性に関し、本件埋立承認取消しに係る「固有の資格」該当性(国の機関等がその「固有の資格」において相手方となる処分か否かの問題をいう。以下同じ。)が問題となるとした。

 ウ なお、Yは、行政不服審査手続において行政不服審査法に基づくものとしてされた裁決であれば、その適法性いかんにかかわらず、一律に「国の関与」から除外される旨主張していた。この主張は、本件訴えにおいて、「固有の資格」該当性は裁判所の審理、判断の対象ではなく、本件裁決は当然に「国の関与」に当たらないと判断されるべきことをいうものと考えられるが、原判決、本判決ともにこの主張を採用せず、本件埋立承認取消しに係る「固有の資格」該当性を裁判所自ら審理、判断している。

(2) 「固有の資格」の意義及び判断方法

 ア 法律上、「固有の資格」との用語が用いられているのは、行政不服審査法7条2項、行政手続法4条1項及び地方自治法245条の3例である。このうち国の機関を対象に含む前二者は、国の機関等がその「固有の資格」において処分等の相手方ないし名あて人となる場合に、国民の権利利益の保護を目的とする法令の規定の適用を除外することを趣旨とするものである。

 一般に、上記の各規定の「固有の資格」は全て同義であって、一般私人が立ち得ないような立場(にある状態)をいうものと解されている(IAM=一般財団法人行政管理研究センター編『逐条解説 行政不服審査法〔新政省令対応版〕』(ぎょうせい、2016)67頁、IAM=一般財団法人行政管理研究センター編『逐条解説 行政手続法〔改正行審法対応版〕』(ぎょうせい、2016)104頁、松本英昭『新版 逐条地方自治法〔第9次改訂版〕』(学陽書房、2017)1135頁)。本判決も、通説のとおり、行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」とは、一般私人が立ち得ないような立場をいうものと解するのが相当であるとした。

 イ 「固有の資格」該当性の判断方法について、学説はおおむね一致しており、①処分の名あて人が国の機関等に限られている場合、及び、②処分に係る事務・事業について、国の機関等が自らの責務として処理すべきこととされ又は原則的な担い手として予定されている場合には、「固有の資格」に当たるが、③国の機関等が処分の名あて人となる場合に特例が定められていても、それが単なる用語変更にすぎない場合には、「固有の資格」に当たらないものと解されている(前掲『逐条解説 行政手続法』105頁以下、高木光ほか『条解行政手続法〔第2版〕』(弘文堂、2017)133頁以下、宇賀克也『行政不服審査法の逐条解説〔第2版〕』(有斐閣、2017)53頁以下等)。

 本判決は、「固有の資格」該当性の判断方法につき、基本的に上記学説と同様の理解に立つものと考えられるが、次のとおり、着目すべき事項及び判断枠組みをより具体的に判示している。

 (ア) まず、本判決は、行政不服審査法は行政庁の処分に対する不服申立てに係る手続を規定するものであり、「固有の資格」は国の機関等に対する処分がこの手続の対象となるか否かを決する基準であることからすれば、「固有の資格」該当性の検討に当たっては、当該処分に係る規律のうち、当該処分に対する不服申立てにおいて審査の対象となるべきものに着目すべきであるとした。

 (イ) その上で、本判決は、埋立承認のような特定の事務又は事業を実施するために受けるべき処分については、その実施主体が国の機関等に限られているか否か、また、限られていないとすれば、当該事務又は事業を実施し得る地位の取得について、国の機関等が一般私人に優先するなど特別に取り扱われているか否か等を考慮して判断すべきであるとした。そして、国の機関等と一般私人のいずれについても、処分を受けて初めて上記地位を得ることができるものとされ、かつ、当該処分を受けるための処分要件その他の規律が実質的に異ならない場合には、処分の名称等について特例が設けられていたとしても、国の機関等が一般私人が立ち得ないような立場において当該処分の相手方となるものとはいえないとの判断枠組みを示した。

 この判断枠組みは、前記の①~③の考え方を、本件の判断対象(特定の事務又は事業を実施するために受けるべき処分)に即して具体化したものと解される。すなわち、このような処分については、国の機関等と一般私人とで処分の名称が異なっていても、それだけで①の場合に当たるなどとして「固有の資格」該当性が肯定されるわけではなく、処分の効果や処分要件等の規律に実質的な差異があるか否かを検討すべきことを示したものと解される。

 (ウ) また、本判決は、当該処分を受けた後の事務又は事業の実施の過程等における監督その他の規律に差異があっても、当該処分に対する不服申立てにおいて直接そのような規律に基づいて審査がされるわけではないから、それだけで行政不服審査法の適用を除外する理由となるものではないとした。

 これは、前記(ア)の判示を踏まえたものであり、行政庁の処分に対する不服申立てにおいては、当該処分を受けるための処分要件その他の規律に基づいて当該処分の適否及び当否が審査される一方、当該処分を受けた後の事務又は事業の実施の過程等が審査の対象となるものではないから、後者の規律に差異があっても、当該処分について行政不服審査法の適用を除外する理由はなく、直ちに「固有の資格」該当性を肯定する根拠とはならないことを明らかにしたものと解される。

(3) 公有水面の埋立てに係る規律

 一般に、埋立てをしようとする者は、都道府県知事(以下、単に「知事」という。)の埋立免許を受けるべきものとされている(公有水面埋立法2条1項)。そして、埋立免許を受けた者は、埋立工事を竣功したときは知事に竣功認可を申請しなければならず、知事の竣功認可により埋立地の所有権を取得するものとされている(同法22条1項、2項、24条1項)。

 これに対し、国において埋立てをしようとするときは、これを実施する機関において知事の埋立承認を受けるべきものとされ(公有水面埋立法42条1項)、また、埋立工事を竣功したときは、知事にこれを通知すれば足りる(同条2項)。そして、国の埋立てには、埋立免許に係る規定のうち、出願手続、審査手続、免許基準、処分の告示等の規定が準用されている一方、免許料の徴収、工事の着手及び竣功の義務、埋立権の譲渡及び承継、竣功認可、違法行為等に対する監督、免許の失効等の規定が準用されていない(同法42条3項)。

 このような規律の違いは、本判決も判示するとおり、公有水面は国の所有に属するものであり(公有水面埋立法1条1項。なお、この「所有」は公法上の所有を含む。)、国は公有水面について埋立ての権能を含む本来的な支配管理権能を有していること(山口真弘=住田正二『公有水面埋立法』(日本港湾協会、1954)21頁以下、三善政二『公有水面埋立法:問題点の考え方』(日本港湾協会、1970)233頁以下)に由来するものと解される。

(4) 埋立承認に係る「固有の資格」該当性

 以上を踏まえて、本判決は、公有水面埋立法の諸規定を検討し、前述の判断枠組みに即した次のア~ウの分析を経て、国の機関が一般私人が立ち得ないような立場において埋立承認の相手方となるものとはいえないとして、判決要旨のとおり、埋立承認は国の機関が行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできないと判断した。

 ア 公有水面埋立法は、国の機関と国以外の者のいずれについても、埋立ての実施主体となり得るものとし、また、知事の処分である埋立承認又は埋立免許を受けて初めて、埋立てを適法に実施し得る地位を得ることができるものとしている。

 イ 埋立承認及び埋立免許を受けるための手続や要件等に差異は設けられておらず、「承認」と「免許」という名称の差異にかかわらず、当該処分を受けるための処分要件その他の規律は実質的に異ならない。

 ウ 国の埋立てには国以外の者が埋立てをする場合に適用される規定の一部が準用されていないが、これらは、埋立免許がされた後の埋立ての実施の過程等を規律する規定であり、そのことによって、国の機関と国以外の者との間で、埋立てを適法に実施し得る地位を得るための規律に実質的な差異があるということはできない。

(5) 本件埋立承認取消しに係る「固有の資格」該当性

 本判決は、埋立承認の取消しである本件埋立承認取消しについても、以上と別異に解すべき理由は見当たらないとして、国の機関である沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となったものということはできないとした。

 

6 本判決の意義

 本件は、本件埋立事業に関連して最高裁判所の判決がされた2件目の事案であるが、地方自治法251条の5第1項に基づく訴えの適法性が争点となったことに特徴があり、地方自治法にいう「国の関与」及び行政不服審査法にいう「固有の資格」の解釈が最高裁判所において問題となった初めての事案である。そして、本判決は、「固有の資格」の意義及び判断枠組みを明らかにするとともに、埋立承認に係る「固有の資格」該当性についての法理判断を示したものであり、実務上重要な意義を有するものと考えられる。

 

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