◇SH1073◇厚労省、派遣元事業主に対する労働者派遣事業停止命令の行政処分を実施 荒田龍輔(2017/03/22)

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厚労省、派遣元事業主に対する労働者派遣事業停止命令の行政処分を実施

岩田合同法律事務所

弁護士 荒 田 龍 輔

 

1. 行政処分の内容

 株式会社セイユー(労働者派遣法5条1項の許可を受けた人材派遣会社(「派遣元事業主」(同法2条4号)(平成27年9月30日施行の労働者派遣法改正前は「一般派遣元事業主」))(以下「セイユー」という。)は、有限会社セクター(以下「セクター」という。)の雇用する労働者をセイユーの労働者であると装い、平成24年8月1日より同27年7月31日までの間に委託契約と称し職業安定法第44条により禁止される労働者供給事業を行ったとして(二重派遣)、平成28年7月14日、愛知労働局長より、本社事業所について同年7月15日から8月14日までの間、労働者派遣事業の停止を命じられた(以下「第1派遣事業停止命令」という。)。それにもかかわらず、セイユーは本社事業所において、少なくとも1社に対し同年8月1日から労働者派遣事業を行い、第1派遣事業停止命令に違反したとして、愛知労働局長より労働者派遣事業停止命令(以下「本件派遣事業停止命令」という。)を再度受けた。

 今回は、本件派遣事業停止命令に関する第1派遣事業停止命令における理由である「二重派遣」について説明したい。

 

2. 二重派遣の禁止

  1. ⑴ 二重派遣とは、派遣元と雇用関係のある従業員が派遣先に派遣され、派遣先から更に別の会社に派遣され指揮命令を受け就労している状態のことをいい、二重派遣は職業安定法44条で禁止される「労働者供給事業」(供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法上の労働者派遣に該当するものを含まない。)に該当する(同条違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(同法64条9号)、その事業主にも100万円以下の罰金(同法67条))。労働者派遣事業も形式的には労働者供給事業に該当するものの、例外的に許容されている。
    また、労働者派遣法では、派遣元事業主(同法5条1項の許可を受けた者)が職業安定法に違反した場合、厚生労働大臣は、労働者派遣事業の許可を取り消し(14条1項2号)、または期間を定めて事業の全部又は一部の停止を命じることができるとされている(同条2項・違反者には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(同法59条4号)、その事業主にも100万円以下の罰金(同法62条))。加えて、厚生労働大臣による同法14条2項の命令は管轄都道府県労働局長に委任されている(同法56条1項、同法施行規則55条1号(いずれも現行法と同じ))。なお、第1派遣事業停止命令に係るセイユーの行為は上記労働者派遣法改正前のものであるため、改正前労働者派遣法が適用されるが(同法改正附則5条)、当該改正前の労働者派遣法14条において「一般派遣元事業主」が「派遣元事業主」に変更されている等の若干の変更を除き、上記引用条文に変更はない。
  2. ⑵ 第1派遣事業停止命令に係るセイユーの行為は、別紙記載のとおり、他社から派遣された労働者を、自社の従業員と偽り委託契約と称して供給先の指揮命令下で労働に従事させていたことから、正に労働者供給事業に該当し職業安定法44条に違反することから、労働者派遣法14条2項、同法改正附則5条等に基づきセイユーに対して第1派遣事業停止命令等が出された(他方で、セクターについても、セイユーの前述の労働者供給事業を幇助したとして、派遣事業停止命令等が出された(同改正附則6条5項等)。)。

 

3. 結語

 第1派遣事業停止命令の理由となったセイユーの行為が「二重派遣」に該当するか否かは比較的容易に判断できるものと思われるが、本件のような場合以外にも、派遣元から派遣先に労働者を出向契約と称して派遣し、さらに派遣先が当該労働者を他社に労働者派遣と称して派遣するような場合もある(平成26年東京労働局による株式会社ナカエンタプライズらに対する行政処分(平成26年9月29日発表)参照)。このように、二重派遣には様々な態様が存在するため、その該当性については個別にその実態を踏まえて判断する必要があるが、例えば、グループ会社間においては、業務の繁忙等を理由に出向で受け入れた従業員をさらに別のグループ会社へ派遣することを検討するような場合も二重派遣に該当しないかを事前に専門家に相談する等して慎重に判断する必要がある。

以上

 

別 紙

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