◇SH0246◇シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(9・完) 丹羽繁夫(2015/03/06)

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シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(9・完)

-神戸地判平成26年10月16日-

一般財団法人 日本品質保証機構

参与 丹 羽 繁 夫

3.本件訴訟で本来問われるべきであった争点は何か

 同社では、創業家一族及びMSによる本件MBOの実施が同社の企業価値の向上に資するとの判断がなされていたので、本件MBOの計画、実現に際しては、前掲MBO指針に示されているように、「企業価値の向上を通じて株主の利益を代表すべき取締役と株主との間に利益相反が構造的に存在するため」、同社取締役には、①株主の適切な判断の機会の確保、②意思決定過程における恣意性の排除及び③価格の適正性を担保する客観的状況の確保等の、透明性・合理性確保のための適切な配慮が求められる。この場合、取締役の善管注意義務違反の業務執行行為により会社に損害が生じたのであれば、当該取締役はその損害を賠償する責任を負う[13]。本件訴訟において善管注意義務違反の責任を問われるべき業務執行行為とは、第三者委員会「調査報告書」が述べたように、「買付者側からの見解表明によって…社外取締役の見解が形成されたり影響を受けたりすることは十分考えられるが、外部からの見解を受け取ったとしても、それを勘案した上で最終的に当該社外取締役自身が」何が合理的であるかを判断しなければならないので、被告H.K.による「意思決定過程における恣意性」に係る行為ではなく、一義的には、被告社外取締役らが「価格の適正性を担保する客観的状況」を確保し、本件公開買付価格の「意思決定過程における恣意性」を排除し、株主に「適切な判断機会」を確保したか否かに係わる行為となるはずである。

 公開買付けに係る株券等の発行者は、公開買付開始公告が行われた日から政令で定める期間内に、当該公開買付けに関する意見を記載した「意見表明報告書」を内閣総理大臣に提出しなければならない(金融商品取引法27条の10)。被告社外取締役らは、この規定に基づき、平成20年8月27日に開催された役員ミーティング以降、公開買付価格の妥当性について主体的に検討を開始し、最終的に9月19日開催の取締役会で、1株当たり公開買付価格を800円とする本公開買付けに賛同する意見を表明した。しかしながら、前述したように、被告社外取締役らは、公開買付価格の妥当性を判断するに際して、創業家アドイバイザーであったハヤテの関与を容認し、買付者側の実質株主であったMSのサポートも受け入れた他、大阪証券取引所からの業務改善報告書の提出要請にみられたとおり、大江橋法律事務所のアドバイスを得て意思決定を行ったかのように、株主の誤解を招く開示を行い、結果として、平成20年12月2日に、賛同意見を撤回せざるを得ない状況を招いたのである。その結果、本件MBOを計画、実現するに際して必要とされた支出の範囲を大きく超える支出を招いたといわざるを得ない。

 本判決は、「12月2日付不賛同表明の理由とされた根拠事実は、被告H.K.らの上記手続的公正性配慮義務違反を構成する『被告H.K.のOに対するメール送信指示行為』の内容とほぼ一致していることに照らすと、被告H.K.らが上記のような手続的公正性配慮義務に違反しなければ、12月2日付不賛同表明には至らず、本件公開買付けは成立していた蓋然性は高かった」と判示したが、このような事実は、同社内で11月18日~28日に実施された社内調査により事後的に判明した事実であって、被告社外取締役らが9月19日に賛同意見表明を決定した時点においては、被告社外取締役らには認識がなく、賛同意見表明の決定には何ら影響を及ぼさなかったものである。本判決も、被告社外取締役らが新たに作成した8月31日付利益計画と9月13日付利益計画について、検証委員会がいずれも不合理であるとはいえないとの見解を示したことなどの事情に照らし、本件公開買付価格の決定自体不公正なものであったとはいい難い、と述べている。このような事実関係に照らすと、被告社外取締役らが12月2日に賛同意見表明を撤回せざるを得なかった背景としては、むしろ、第三者委員会「調査報告書」が指摘した被告社外取締役らによる株式価値の算定過程に創業家一族のアドバイザーであったハヤテ及びMSの関与とサポートを許容した「MBOの手続的公正性配慮義務」違反の事実と、大阪証券取引所から業務改善の指摘を受けた、大江橋法律事務所の「意見書」に係る「取締役の会社法上の義務としての善管注意義務(情報開示義務)」違反の事実に求められるべきであった、と考えられる。

 本判決は、MBOを検討する会社の取締役の各ステージに対応する責務を詳細に分析した労は多としたいが、前述のとおり、事実認識の誤りと法の適用における誤りという課題を抱えているといわざるを得ない。

(完)


[13] 「取締役は、その善管注意義務違反の業務執行行為により会社に生じた損害を賠償する責任を負う。」(江頭憲治郎『株式会社法』〔第5版〕462頁(有斐閣、2014年7月))。

 

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