「ストレスチェック制度」導入2年目を迎えて
岩田合同法律事務所
弁護士 深 沢 篤 嗣
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近年、労働者の長時間労働は社会的問題となっており、平成27年には大手広告代理店において新入社員が過労により自殺するという痛ましい事件も発生している。厚生労働省(以下「厚労省」という。)の統計によれば、平成27年度の精神障害に係る労災請求件数は1515件、支給決定件数は472件であり、下表のとおり平成23年以降、増加の一途を辿っている。
平成29年3月28日に「働き方改革実現会議」が公表した「働き方改革実行計画」においては、現状は厚生労働大臣の限度基準告示で定められている時間外労働の上限規制を法律に格上げし罰則の対象とすることや、メンタルヘルス対策や企業における労働者の健康管理の強化などの対策が掲げられているところである。
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このような中、平成26年労働安全衛生法改正により新設された「ストレスチェック制度」は、平成27年12月に施行され、現在、施行から2年目を迎えている。
ストレスチェック制度とは、一定の事業者に対し、労働者の心理的な負担の程度を把握するため、医師等による検査(ストレスチェック)の実施や、ストレスチェックを実施した場合、労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じることなどを義務付けるものである(労働安全衛生法66条の10)[1]。
対象となる事業者は、毎年1回、ストレスチェックを全ての労働者に対して実施する義務を負っているため、対象となる事業者においてはこれまでに1回以上はストレスチェックが実施されているはずである。未実施の事業者においては、下記のウェブサイトを参照の上、速やかに実施されたい。
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ストレスチェック制度に関しては、厚労省が、ストレスチェック制度を始めとするメンタルヘルスに関する情報を発信するウェブサイト「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/。以下、「本サイト」という。)を開設しており、本サイトに掲載された情報が非常に有用である。
本サイトでは、ストレスチェックの受検、ストレスチェックの結果出力、集団分析等ができる「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」が無償で配布されている(平成29年4月5日、バージョン2.0が公開されている)。
ストレスチェック制度やその導入方法について説明がされている「ストレスチェック制度簡単導入マニュアル」、「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」等のマニュアル類も充実しており、さらに、対象となる事業場は、1年以内ごとに1回、定期に、ストレスチェックの結果等の報告書を、労働基準監督署へ提出しなければならないが(労働安全衛生規則52条の21)、この報告に用いる「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」も本サイトから入手できる。
また、企業においてストレスチェック制度を導入するにあたっては、社内規程の整備が必要になるところ、社内規程のひな型(「ストレスチェック制度実施規程(例)」)も掲載されており、これら情報を活用すれば導入に伴う負担は相当程度軽減されるだろう。
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なお、同じく厚労省が開設する労働者向けメンタルヘルスのポータルサイトである「こころの耳」(本サイトにリンクが設置されている。)では、57問の選択肢に回答することで労働者が個人で簡易にメンタルヘルスの状態をチェックできる、「5分でできる職場のストレスセルフチェック」というページや、20問の選択肢に回答することで疲労度を測定できる「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」というページも設けられている。長時間労働をされている方などは、これらページで自己診断をしてみることも有用であろう。
以上