◇SH1134◇実学・企業法務(第43回) 齋藤憲道(2017/04/27)

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実学・企業法務(第43回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3. 製造・調達

 製造・調達には、原料及び材料[1][2]の調達(外注を含む)、製造、生産技術、商品(完成品)調達、生産管理、品質管理等の機能が含まれる。この段階の日常的な管理の要点を、次に3つ挙げる。

  1. A.「高い品質」を維持
     企業の信用の基礎になる要素であり、多くの企業が、最も重要な管理項目として厳しく管理している。
  2. B.「少ない資金」で安定生産
     原材料及び材料(外注先への預け在庫を含む)、仕掛品、完成品等の在庫を可能な限り少なくして必要資金を圧縮するとともに、在庫の廃棄を「ゼロ」に近付ける[3]。このためには、絶えず変化する市場の需要に自社の生産・在庫を対応させて、「品切れ、売り損じ」を最小にし、かつ、「滞留在庫の投げ売り、廃棄」を生じない生産・販売・在庫管理体制を構築することが必須である。
  3. C.「価格競争力」を確保
     メーカーでは、販売価格に占める製造原価の割合が大きいので、組立・加工・調達(材料・半完成品・完成品等の調達)等に係るコストをどれだけ低減できるかが、自社製品の価格競争力に直結する。このため、製造・調達部門では、損益分岐点(採算ライン)を引き下げてライバルとの価格競争に負けないようにする取り組みを常に行っている。これは、仕入価格低減、歩留り向上、材料廃棄ロス削減等の「製品の単位当たりの変動費を下げる施策」と、工数削減による人件費削減、機械設備の製作費・稼働費(電気・ガス・上下水道・補修等)の低減等の「固定費を下げる施策」を組み合わせて実現する。
     なお、工場では、景気が多少変動しても利益を確保するために、業務の一部又は全部を外部委託する等して、固定費を変動費化することを検討する。
  1. (注) 近年、日本ではエネルギー・コストや環境保護コストが高くなる傾向にあるため、省エネや環境低負荷を実現するための技術・工法の開発に力が注がれている。

(1) 信頼できる調達先を確保し、競争力ある生産体制を構築

 発注者が指定する規格・仕様に対応できる品質力とコスト力を持ち、かつ、発注量の増減に柔軟に対応できる調達先を選んで育成することは、資材・購買部門の重要な任務である。

調達先の選定基準は企業によって異なるが、その中には、調達先の経営トップの経営姿勢、商品の市場競争力(特性・品質・価格・納期等)、経営状況(資金繰り・労働争議等)等の検討項目が含まれる。信頼関係ができた発注者と調達先の間では、自主責任経営の考え方や、社員・品質・利益・技術開発・設備投資等の経営の基本事項に関する考え方が共有されている。

近年は、環境保護・法令遵守・反社会的勢力の排除等を調達先に求める企業が多い。環境破壊や法定報告書[4]の改ざん等を行う悪質事業者と取引すると、社会から「反社会的勢力の一味」と疑われるおそれがある。

a. 取引契約の締結と履行
 製造・調達部門では、取引先数や調達する部品・完製品の品番数・数量・取引回数が多く、業務の重複と作業ミスの発生を避けるために、大半の取引業務が定型化・簡素化・電子化されている。
 工場では、生産計画に基づいて材料・部品の調達計画を作成し、調達先に数量・納期・納入場所等を指定して発注する[5]。発注した材料・部品が指定の納期・場所に納入されると、受入れ検査を行い[6]、発注条件(数量・仕様・品質等)に一致していることを検査・確認した上で、仕入れ手続き(経理処理等)を行う。
 1回の納品ごとに、仕様・単価・数量・納期・納入場所・材料支給の有無等の取引条件が異なるので、杓子定規に言えば、毎回の納品のつど、契約書を作成することになる。
 しかし、企業の材料仕入等の取引は繰り返し行われる定型業務であり、つどの契約は多くの条項が共通になっている。そこで、通常は、この共通条項[7]をまとめて一つの「取引基本契約」とし、これに、毎回の発注のつど個別に定める仕様・単価・数量・納期他の取り決めを「個別契約」と位置付けて、両者を併せて一体の契約として運用する。
 近年、「個別契約」の多くは、ネットワーク上の電子的手段により締結[8]される。

  1. (注) 映像制作の場合の契約のあり方
    テレビの連続ドラマの制作は、視聴者の反応を反映しながら行うことも多く、番組のスタート時点では脚本や収録が完成していないことが少なくない。しかし、制作段階で原作者や他の著作権関係者との間で紛争が生じて制作が中断することがあるので、事前にできるだけの権利処理を済ませておくことが望まれる。


[1] 財務諸表規則15条8号。なお、「原価計算基準 第二章第一節八(一)」は、素材(原料)・買入部品・燃料・工場消耗品・消耗工具器具備品を材料として区分する。

[2] 消耗品、消耗工具・器具・備品、その他の貯蔵品等(財務諸表規則15条10号)

[3] トヨタの「カンバン方式」は、後工程(部品を使用する工程)が「何を、いつ、どれだけ、どんな方法で、欲しいか」を前工程(部品を供給する工程)に指示し、これに従って前工程が生産することにより、作り過ぎ・運び過ぎのムダを排除して部品・仕掛品在庫を削減し、工程異常による遅れ等を早期に察知する効果的な管理システムとして知られている。

[4] 支払調書・源泉徴収票等の法定調書(所得税法・相続税法・租税特別措置法等)、給与支払報告書(受給者の市区町村に提出。地方税法第317条の6)、工事監理報告書(建築士法20条3項)等

[5] 需要が変動する場合は1週間単位又は1ヵ月単位で発注する「定期発注方式」のメリットが大きく、需要量が安定した安価な常備品や一般市販商品では、需要量・調達期間・安全在庫量を考慮して事前に定めた発注点を下回ったときに一定量を発注する「定量発注方式」が有効とされる。

[6] 長期間の信頼できる実績がある取引先については、一定の条件を定めて無検査受入に移行することがある。

[7] 物品授受、受入検査、所有権の移転時期、危険負担、品質保証、材料支給、設備貸与、代金支払の方法と時期、知的財産の取り扱い、機密保持、契約違反の取り扱い、契約解除、損害賠償、契約有効期間、裁判管轄、等

[8] 2000年11月に下請代金支払遅延等防止法が改正され、従来の書面交付(3条第1項)に代えて電子受発注ができることが明らかになった。公正取引委員会平成13年3月30日「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」参照

 

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