◇SH2111◇シンガポール:株式譲渡時の印紙税の取扱いに関する最近の制度改正(下) 坂下 大(2018/09/28)

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シンガポール:株式譲渡時の印紙税の取扱いに関する最近の制度改正(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 (前稿では、シンガポール印紙税法における基本的な課税枠組みと、2017年改正前における株式譲渡に関する印紙税の取扱いについて説明した。本稿では、2017年3月及び2018年4月にそれぞれ行われた制度改正について説明する。)

 

(3) 2017年の印紙税法改正による影響

 2017年3月11日施行の改正法に基づく印紙税法の改正(以下「2017年改正」という。)前までは、株式の譲渡に関する契約が印紙税法22条(1)に基づく課税の対象から明示的に除外されていた旨は前稿のとおりであるが、2017年改正によりこの除外文言が削除された。

 背景事情を少し説明すると、2017年改正は、いわゆるAdditional Conveyance Duty(以下「ACD」という。)という新たな課税類型を導入することを主たる目的とするものである。ACDは、ごく簡潔にいうと、居住用不動産の譲渡に関して、当該資産を直接譲渡する場合と、当該資産を保有する会社の株式を譲渡する場合とで、印紙税課税のタイミングや税率に不均衡が生じていたことに対応するためのものであり、一定の条件を満たした、居住用不動産を保有する会社の株式の譲渡等の場合に、一定の税を課すことでかかる不均衡を是正することを企図したものである。上記、印紙税法22条(1)における株式譲渡契約の除外文言の削除は、ACDの導入に伴う関連規定の整備の一環として行われたものであると推察されるが、結果的には、ACDが適用される場合か否か(つまり、株式譲渡の対象会社が居住用不動産の保有会社か否か)にかかわらず、およそ株式の譲渡に関する契約は全て、印紙税法22条(1)に基づく課税の対象に含まれることとなった。

 かかる2017年改正により、株式譲渡における印紙税の対象は、クロージング時に作成される株式譲渡文書から、これに先立つ譲渡契約(SPA等)に変更されることとなったが、これに伴い、(i)SPAにおけるクロージングの前提条件の不充足その他の理由で、実際にクロージングが起こらずにSPAが終了した場合、どのような条件や手続の下で納付済みの印紙税の還付が認められるのかが必ずしも明らかではない、あるいは(ii)上場株式の取得、譲渡等に関して、従前は印紙税の対象ではないと整理されていた公開買付け(general offer)関連の書面や、中央預託機構等における口座振替手続関連の書面等も、今後は、株式の譲渡に関する契約に該当するものとして印紙税の対象となるという趣旨であるのか必ずしも明らかではない、といった論点も生じていたところである。

(4) 2018年規則による再修正

 以上のような経緯の下、2018年4月11日付けで、The Stamp Duties (Agreements for Sale of Equity Interest) (Remission) Rules 2018(以下「2018年規則」という。)が施行されている。

 2018年規則は、(i)株式譲渡に関する契約については、ACDの対象となるものを除いて、印紙税法22条(1)に基づく課税を免除する旨、また、(ii)一定の上場株式(中央預託機構等に預託されている株式)等の譲渡に関する契約のうち、ACDの対象になるものについて、印紙税法22条(1)に基づく課税及びACDを免除する旨等を定めている。これにより、例えば非公開会社の株式譲渡の場合における印紙税は、ACDの対象となる場合を除いて、クロージング時に締結される譲渡文書に課税されるという、2017年改正前と同様の取扱いに変更されたことになる。2018年規則により、2017年改正によって生じた種々の論点は概ね解決をみたと考えられ、実務的には歓迎すべき改正であるように思われる。

 

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