◇SH1156◇実学・企業法務(第47回) 齋藤憲道(2017/05/15)

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実学・企業法務(第47回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3. 製造・調達

(4) 労務管理

 モノ作りを行う企業では、製造現場で多数の作業員が働いているので、現場の末端まで労働法の遵守を徹底することが重要である。

a. 安全衛生管理
 どの工場でも「安全第一」は最優先の管理項目である。この点について労働安全衛生法[1]は、①労働災害の防止のための危害防止基準を確立し、②責任体制の明確化および自主的活動の促進の措置を講じ、③労働災害の防止に関する総合的計画的な対策を推進すべきこと、を定めている[2]
 企業は、事業を統括する管理者・事業者が指名する経験ある労働者等で構成される安全委員会・衛生委員会(又は両者をまとめた安全衛生委員会)を設置して、労働者の危険・健康障害を防止する基本対策・再発防止策等を行い[3]、労働者の安全・健康を確保し、快適な職場環境の形成に努める。また、企業は、規模に応じて産業医を選任[4]し、労働者の健康管理等を行なう。
 労働安全衛生については、厚生労働省がさまざまな安全規則・予防規則・防止規則等を定めている[5]。作業の現場ではこれらを漏れなく遵守しなければならない。
 万一、事業場で火災・爆発・倒壊・ワイヤーロープ切断等の特定の事故や労働災害が発生した場合、及び、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内(又は附属建設物内)で負傷・窒息・急性中毒により死亡又は休業したときは、報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない[6]
 職場の安全を確保するために、多くの企業が、厚生労働省が一定期間労働災害を発生させることのなかった事業場に対して授与する「無災害記録証[7]」の取得を目指して、安全衛生活動を展開[8]している。

b. 派遣労働
 企業が、人材派遣会社の労働者を受け入れて自社の生産活動を行う場合は、労働者派遣法の適用を受ける実態の有無を確認する必要がある。請負契約の形式であっても、注文主(実質的な派遣先)と労働者の間に指揮命令関係があれば、派遣先は、安全衛生対策や労働時間管理の面で派遣労働者に関する責任を負う[9]
 雇用主(派遣元事業主、請負事業者)・派遣先・注文主が負うべき責任範囲は、契約の標題ではなく「現場の実態」を基準にして判断するので、厚生労働省や都道府県労働局のガイドライン[10]を参照し、正確に実態を把握する必要がある。

  1. (注) 派遣と請負の違い
  2.   「労働者派遣事業」では、派遣元事業主が自ら雇用する労働者を、派遣元と労働者派遣契約を結んだ派遣先の指揮命令を受けて、派遣先のために労働に従事させる。一方、「請負」は、労働の結果としての仕事の完成を目的とする[11]が、注文主と労働者との間に指揮命令関係を生じない。


[1] この他に労働安全衛生関連法として、作業環境測定法、じん肺法、健康増進法、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法、労働災害防止団体法、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律、がある。

[2] 労働安全衛生法1条。労働者の安全衛生に関しては労働安全衛生法の定めるところによる(労働基準法42条)とされている。また、労働基準法62条(危険有害業務の就業制限)は、「①使用者は、満18才に満たない者に、運転中の機械若しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査若しくは修繕をさせ、運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせ、その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ、又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない。②使用者は、満18才に満たない者を、毒劇薬、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない。③前項に規定する業務の範囲は、厚生労働省令で定める。」としている。

[3] 労働安全衛生法17条(安全委員会)、18条(衛生委員会)、19条(安全衛生委員会)

[4] 労働安全衛生法13条。常時50人以上の労働者を使用する全ての事業場で選任し、常時3,000人を超える労働者を使用する事業場では2人以上の産業医を選任する。なお、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場および一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、専任の産業医を選任する。

[5] ボイラー及び圧力容器安全規則、クレーン等安全規則、ゴンドラ安全規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、特定化学物質等障害予防規則、石綿障害予防規則、電離放射線障害防止規則、酸素欠乏症等防止規則、粉じん障害防止規則、高気圧作業安全衛生規則、事務所衛生基準規則、機械等検定規則、作業環境測定法施行規則、じん肺法施行規則、等

[6] 労働安全衛生法100条。労働安全衛生規則96条、97条。違反者には罰金が科される(労働安全衛生法120条)。

[7] 無災害記録は、第1種無災害記録から第5種無災害記録まで5段階ある。

[8] 現場の作業環境を実際に点検して安全を確保するため、定期的に作業員等が参加して職場安全パトロールを実施する例がある。

[9] 労働関係法については派遣元事業主が雇用主として責任を負うのが原則だが、労働基準法(労働時間、休憩、休日、時間外労働等)、労働安全衛生法(安全管理者等、危険防止のために事業者が講ずべき措置等、危険有害業務就業時の安全衛生教育等)に関しては、派遣先事業主が責任を負う。なお、労働基準法(強制労働の禁止等)、労働安全衛生法(労働者死傷病報告等)、男女雇用機会均等法については、派遣元と派遣先の双方が責任を負う。

[10] 「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」厚生労働省・都道府県労働局

[11] 民法632条

 

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