企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
1. 人事の基準(規程等)
(1) 労働基準監督署の調査に対応できる水準の管理を行う
②労働基準監督官が悪質案件を検察庁に送検
毎年、約1,000件・約2,000人が送検され、その約40%が起訴されて、罰金刑が科されている。
- ○ 起訴されると、ほぼ100%有罪になる。
-
2007年~2016年の10年間の合計は次の通りである[1]。
送検 10,903件 20,762人
起訴 4,124件 7,635人
裁判結果 懲役19件 26人 罰金(正式)73件 131人 罰金(略式)4,004件 7,424人 無罪2件 4人
- ○ 送検事件(2016年 890件)の内訳
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〔件数が多い業種(多い順)〕
建設業309件(建築工事149、土木工事79、他81)、製造業210件(金属製品34、衣服・繊維製品30、食料品29、他117)、商業75件、運輸交通業66件、接客娯楽業36件、清掃・と畜業30件 -
〔違反した法律・条項(多い順)〕
労働安全衛生法497件(設備等135、作業方法135、報告等86、就業制限35、注文者26、作業主任者17)[2]
労働基準法380件(賃金の支払185、労働時間95、時間外・休日・深夜の割増賃金37、解雇の予告12)[3]
最低賃金法13件
③ 労働基準監督署が臨検・調査を行う際に、会社に提示を求める資料(例)
・・・企業は、いつでも提示できるように管理する。
企業には、次の1)~3)の資料・記録を日頃から適切に作成[4]して管理・保管することが求められる。
- 1) 会社の運営、当事者関係
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会社組織図、労働者名簿[5]
- 2) 規則・制度関係
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就業規則、労働条件通知書(雇用契約書)、時間外労働・休日労働・変形労働時間制等の企業で必要とする労使協定・協議書
- ○ 就業規則は事業場単位で作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出る[6]。
- 〔絶対的必要記載事項〕労働時間(始業・終業の時刻、休憩時間、休日、交代制等)、賃金(決定・計算・支払方法、賃金の締切・支払時期・昇給関係事項)、退職関係事項(解雇事由を含む)
- 〔相対的必要記載事項〕退職手当、臨時賃金・最低賃金額、食費・作業用品等の労働者負担、安全衛生、職業訓練、災害補償・業務外疾病扶助、表彰・制裁等
- ○ 解雇する場合は、解雇要件に該当する事実の証拠が要る[7]。
- ○ 労働者に明示すべき労働条件[8]。
- 労働契約期間に関する事項、就業場所・業務内容、始業・終業時刻と休憩時間、超過勤務の有無、所定休日、賃金の決定・計算・支払方法・締切日と支払日、退職に関する事項(解雇事由を含む)、退職手当関係、臨時の賃金・賞与、安全衛生、職業訓練、表彰・制裁に関する事項、休職に関する事項等
- 3) 実施状況の記録
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賃金台帳(賃金明細書)[9]、出勤簿(タイムカード等)、時間外労働申請書等の労働時間記録、変形労働時間のシフト票、有給休暇の取得状況の管理簿(有給休暇届)、健康診断個人票、安全衛生管理の状況を証する資料(総括安全衛生管理者の選任、安全委員会・衛生委員会の設置・運営<職場巡回・改善等を含む>、産業医の選任、過重労働対策記録、医師による面接指導記録)
- 4) 書類の保存義務
- 労働者名簿、賃金台帳、雇入・解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類は、3年間の保存義務がある[10]。
[1] 被疑者死亡・併合処分・検察官処分中止等により、送検後の取り扱い件数は減少する。送検・起訴・裁判の時期は異なるが、それぞれの時期に計上している。
[2] 労働安全衛生法20条(事業者の講ずべき措置等<設備等>)、21条(事業者の講ずべき健康障害防止措置<作業方法>)、100条(当局への報告等)、61条(クレーンの運転等の就業制限)、31条(注文者が講ずべき労働災害防止措置)、14条(作業主任者の選任)
[3] 労働基準法24条(賃金の支払)、32条(労働時間)、37条(時間外・休日・深夜の割増賃金)、20条(解雇の予告)
[4] 厚生労働省HPの「主要様式ダウンロードコーナー」に「労働基準法関係主要様式」が紹介されている。
[5] 労働基準法107条1項(労働者名簿)。同法施行規則53条
[6] 労働基準法89条、90条。同法施行規則49条1項
[7] 労働基準法19条(解雇制限)、20条(原則として30日前に解雇予告)、21条(20条の非適用)
[8] 労働基準法15条1項(労働条件の明示)。同法施行規則5条
[9] 労働基準法108条(賃金台帳)。同法施行規則54条、55条、55条の2。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省2017年1月20日)。なお、いわゆる「給与明細」には「賃金台帳」に記載すべき「賃金計算の基礎となる」労働時間・時間外労働時間が記載されないことが多いが、この記載がなければ「賃金台帳」に代えることができない。
[10] 労働基準法109条(重要な書類の3年間保存義務)