経産省のM&A研究会、MBO指針改訂検討中の論点で意見募集結果を公表
ーー「特別委員会」の枠組みなどにつき意見を踏まえて詳細を提示ーー
経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する研究会」(座長=神田秀樹・学習院大学大学院教授)は2月22日、第5回会議を開催した。当日の会合では、検討中の論点に関して昨年12月28日〜本年2月5日の間、広く国内外の関係者から各論点に関する意見・情報提供を求めるとして実施されたパブリックコンサルテーションの結果が紹介されるとともに、論点に係る整理・議論が行われている(同研究会の開催趣旨・論点について、SH2202 経産省、「公正なM&Aの在り方に関する研究会」の初会合を開く(2018/11/20)」既報)。
パブリックコンサルテーションに対しては経営法友会・日本経済団体連合会・在日米国商工会議所といった経済団体3件のほか、投資家7件、企業実務家2件、算定機関1件、法律実務家1件、計14件の意見が寄せられた。募集に際して明示されていた論点は、次の6点となる。
【論点1】取引類型間の共通点・相違点等(MBO指針の見直しにあたり「支配株主による従属会社の買収」を検討対象に含めることを前提としたうえで「MBO、支配株主による従属会社の買収等の各取引類型の間には、どのような共通点・ 相違点等が存在するか」など)、【論点2】特別委員会(独立した委員会に当該M&A取引の是非および条件についての諮問や買収者との交渉を委託し、当該委員会による判断等を尊重するとする「特別委員会の設置の要否について、どのように考えるか」など)、【論点3】株式価値算定、フェアネス・オピニオン(MBO指針においてフェアネス・オピニオンについては特段言及していないところ「株式価値算定とフェアネス・オピニオンの取得の要否やその効果、取得に伴う弊害等について、それぞれどのように考えるか」など)、【論点4】マーケット・チェック(対象会社がある買収者から買収提案を受けた場合により条件のよい代替的な買収提案の有無を調査・検討することを意味する「マーケット・チェックの実施の要否やその効果、実施に伴う弊害等について、どのように考えるか」など)、【論点5】Majority of Minority 条件(「M&A取引の実施に際し、株主総会における賛否の議決権行使や公開買付けへの応募の有無により株主の意思表示が行われる場合に、利害関係を有しない株主のうちの過半数が賛成することを取引の前提条件とすること」を意味する「Majority of Minority 条件の設定の要否やその効果、設定に伴う弊害等について、どのように考えるか」など。MBOの多くの事例では Majority of Minority 条件が設定されているのに対し、支配株主による従属会社の買収では Majority of Minority 条件が設定される事例は少ないと指摘される)、【論点6】情報開示(株主の判断に資するために「開示することが望ましい情報は何か。また、その理由は何か」など)。
これらの論点のうち、たとえば【論点1】にも関係する「改訂指針の位置付け」として「支配株主と被支配会社の間のM&Aに関して、新たな規制を設ける趣旨であれば(中略)あくまでベストプラクティスとして位置付けるべき」とする意見(経営法友会)、【論点2】に関して「利益相反性の程度、代替措置の有無等に応じて、企業の柔軟な判断を認めるべき。特に支配株主による従属会社の買収の場合、原則的な設置の推奨は不適当」とする意見(日本経済団体連合会)などが寄せられる一方で、同様の論点に関して在日米国商工会議所からはまた別の観点からMBO指針による明確化を望むものとも捉えられる意見が提出されるなどしており、意見の分布・内容の詳細については同日の開催資料2「事務局説明資料」48頁〜119頁を適宜参考とされたい。
このような意見を踏まえて「基本的な考え方」として示されているのは、MBOや支配株主による従属会社の買収において一般的に存在するとされる “構造的な利益相反の問題” と “情報の非対称性の問題” を「解消し、独立当事者間の取引と同視し得る状況を確保することにより、企業価値の向上と公正な取引条件を実現するための方策として、取引条件の公正さを担保することに資する措置(公正性担保措置)を講じることが望ましい」とするもので、事務局提示の要点は(a)各措置の実施は公正な取引条件を実現するうえでの必要条件ではなく、常にすべての措置を講じることが求められるわけではない、(b)具体的状況に応じて、いかなる措置をどの程度講じるべきかが検討されるべきであり、講じられる措置を全体としてみて取引条件の公正さを担保するための手続として十分かどうかが評価されるべき、(c)個々のM&A取引において最適な組合せの公正性担保措置を選択・判断するにあたっては、独立性の確保された主体が主体的に関与することが重要ーーの3点に集約される(開催資料2「事務局説明資料」130〜133頁参照)。
同様に意見募集を経て、たとえば「特別委員会」の在り方についても、その枠組みが仔細に提示されるに至った。特別委員会については(1)機能、(2)位置付け、(3)設置の要否、(4)役割、(5)有効に機能するための実務上の工夫、(6)社外役員が委員となる場合の位置付けといった骨格が示されており、「有効性の高い公正性担保措置」として「MBOや支配株主による従属会社の買収において取引条件の公正さを担保する上で、特別委員会を設置する必要性は特に高いといえ、特別委員会を設置することが望ましいと考えられる」とされている。
さらに(5)に係る具体的な項目とし、①設置の時期、②構成、③交渉への関与、④アドバイザー、⑤報酬といった実務の細部に係る提案がなされており、「望ましい委員構成」を提示する②をみると、「特別委員会の委員の独立性は、委員となる者に求められる必須の前提条件であり、高度な独立性が求められる」との考え方に基づき、おおむね次の4つの視点が明らかにされた。
(ア)①買収者からの独立性および②当該M&A取引からの独立性(利害関係がないこと)が要求され、これらの独立性は対象会社および一般株主の利益を図る観点から適切な判断を行うことが一般に期待できるかという観点から、個々のM&A取引における具体的状況を踏まえて判断すべき(会社法上の社外性や取引所規則上の独立性の基準を満たすことのみをもって、特別委員会の委員として必要な独立性があるということには必ずしもならないことに留意)、(イ)特別委員会の委員の独立性を担保する観点から、対象会社の独立社外役員が委員の選定プロセスに主体的に関与し、委員候補者の独立性その他適格性を検討することが望ましい、(ウ)①株主総会で選任され、会社に対して法律上義務・責任を負い、株主代表訴訟の対象ともなりうる、②取締役会の構成員として経営判断に関与することが本来的に予定された存在で、③対象会社の事業にも一定の知見を有している社外取締役が委員として最も適任であると考えられ、独立性を有する社外取締役が存する限り、原則、少なくとも1名は委員に加わることが望ましく、社外取締役が委員長を務めることが望ましい、(ウ)社外監査役は、社外取締役を補完するものとして、委員としての適格性を有する、(エ)社外有識者については、M&A取引に関する専門性を補うために、社外取締役および社外監査役に加えて委員として選任することは妨げられない(開催資料2「事務局説明資料」134〜149頁参照)。
同研究会においては、4月5日に予定される次回会合(第6回会議)および4月19日予定の会合(第7回会議)で取りまとめに向けた検討を行い、その結果をパブリックコメントに付す方針である。