◇SH1192◇改正銀行法の成立とこれを踏まえた実務対応(1) 落合孝文 谷崎研一(2017/05/29)

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改正銀行法の成立とこれを踏まえた実務対応(1)

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

弁護士  落 合 孝 文

弁護士  谷 崎 研 一

 

一 改正銀行法成立の経緯

 「銀行法等の一部を改正する法律案」が平成29年3月3日に、第193回国会に提出され、5月26日に成立し、銀行法が改正されることとなった(以下、上記改正後の銀行法を指して「改正銀行法」という。)。本改正法案は、平成28年12月27日付の金融審議会「金融制度ワーキング・グループ報告-オープン・イノベーションに向けた制度整備について-」(「金融制度WG」という。)における報告内容に沿うものである。

 同年4月28日、衆議院財務金融委員会では、実効性のある検査及び監督体制を整備や、優秀な人材の確保と職員の専門性の向上、必要な定員の確保及び機構の整備に努めることを求める附帯決議がなされた。

 同年5月25日の参議院財務金融委員会では、衆議院財務金融委員会での決議事項だけでなく、電子決済等代行業者に関する規制を、事業者等からも聴取の上、必要最小限のものとすること、銀行代理業規制の適用範囲の適切な設定を行うこと、金融機関において電子決済等代行業者関係事業者に十分な準備期間を与えること等事業者において従来より懸念が示されていた事項を含む附帯決議がなされた。

 本稿の一、二においては、改正直後の速報ということで、上記銀行法改正を中心にして、オープンAPIの導入に関する制度整備の概要を示す。その上で、三及び次回以降において数回にわたって詳細な説明を行う。

 

二 改正銀行法の概要

(1) 電子決済等代行業者に関する登録制の導入

 電子処理組織を利用する方法により、銀行の口座情報に関し為替取引の指図を行う事業者(1号事業者)及び情報を取得し顧客に提供する事業者(2号事業者)が改正銀行法により、電子決済等代行業者としての登録の対象とされた(改正銀行法2条17項、18項)。銀行APIに接続し、APIを利用して上記の口座情報取得や為替取引の指図を行う事業者が典型的にこれに該当すると考えられる。

 この点、条文を形式的に読むと、1号事業者には、いわゆる決済代行業者、出納代行業者が、2号事業者については他社のID・パスワードを預かることでサービスを行う事業者が多く存し、かなり登録範囲が広くなるように思われるので、今後の政府令における業の範囲に関する議論を注視する必要がある。

 改正銀行法52条の61の5では、電子決済等代行業者について、財産的基礎の確保や体制整備が求められている。この箇所を含め、改正銀行法では、具体的な規制の内容は政府令に委ねられているので、政府令の策定の動向を確認することが極めて重要である。また事業者の視線では、1号事業者と2号事業者とでは関与する取引のリスクが大きく異なるので、政府令レベルでの書き分けを求める声が強い。

(2) 電子決済等代行業者の業務、銀行と電子決済等代行業者との契約締結等

 電子決済等代行業者は、利用者に対して、自らの権限、損害賠償、苦情等の相談窓口等を説明し、さらに銀行の行う業務との誤認防止措置、安全管理措置、委託先管理等を行うこととされている(改正銀行法52条の61の8)。利用者に対し説明する、電子決済等代行業者の権限の範囲は利用者がどのようなサービスを受けようとするか理解するために必要不可欠であるし、損害賠償の範囲、苦情等の窓口については、全銀協のオープンAPIの在り方検討会でも特に議論がされた箇所であり、利用者が安心できる仕組みづくりのために重要な点である。

 電子決済等代行業者は、銀行と契約を締結して業務を提供するが、契約の中では銀行と電子決済等代行業者との間での損害賠償責任の分担、電子決済等代行業者が行うべき情報管理及び安全管理措置、並びにこれらが行われない際に銀行が行うことができる措置等を規定する(改正銀行法52条の61の10)。そもそもアカウントスクレイピングで銀行口座の情報を取得する場合には、契約締結がされていなかったので、契約締結を義務付けること自体が銀行と電子決済等代行業者の業務に実務的に極めて大きな影響を与えることになる。ただし、この契約締結については、法律の施行の際現に銀行等の口座情報を取得し、これを預金者等に提供することのみを行っている電子決済等代行業者等については、施行日から最大2年の範囲で猶予がされる(改正銀行法附則2条)。

 電子決済等代行業者に対しては監督規定も整備されている(改正銀行法52条の61の12ないし15)。

(3) 金融機関におけるオープン・イノベーションの促進

 銀行は、電子決済等代行業者と契約を締結するにあたり、基準を公表することとされており、この基準に合致する事業者との間では不当に差別的な取扱いを行ってはならないとされている点も重要である(改正銀行法52条の62の11)。ただし、銀行等は公布の日から9ヵ月以内に電子決済等代行業者等との連携及び協働に係る方針を決定し、公表しなければならないので、実務的にはこの対応が先行して行われることになると想定される(改正銀行法附則10条)。

 また、電子決済等代行業者等と契約を締結しようとする銀行等は、施行日から最大で2年の間に、当該電子決済等代行業等が、利用者から当該利用者に係る識別符号等を取得することなく電子決済等代行業等を営むことができるよう、体制の整備に努めなければならないこととされている(改正銀行法附則11条)。これは銀行APIの提供を行うことに関する努力義務と考えられているが、API構築コストがある程度かかるという現状がある中で、銀行、電子決済等代行業者、利用者の3者にwin-win-winの関係が生まれるビジネスモデルがどのようなものになるかという点が、今後API提供が推進されるにあたり、民間側の動向として注目される点である。

三 改正銀行法の内容

1 経緯

 「銀行法等の一部を改正する法律案」が第193回国会に提出され、本年5月26日に成立した。同改正法案により改正された後の銀行法(以下「改正銀行法」という。)においては、「電子決済等代行業に関する法制度の整備」のほか、「外国銀行支店に係る事業年度の弾力化」「銀行代理業者の営業所の位置を変更した場合の届出緩和」に関しても改正がなされているが、本稿では、「電子決済等代行業に関する法制度の整備」の部分について焦点を絞って解説したい。

 本改正法案は、平成28年12月27日付の金融審議会「金融制度ワーキング・グループ報告-オープン・イノベーションに向けた制度整備について-」(「金融制度WG」という。)における報告内容に沿って、平成29年3月3日閣議決定され、同年4月28日、衆議院財務金融委員会において可決された。ここでは、次の附帯決議がなされている。

  1.    政府は次の事項について十分配慮すべきである。
  2. 一 本法に基づく制度の運用にあたっては、情報通信技術の急速な進展等を踏まえ、金融機関と金融関連IT企業等との適切な連携・協働の推進及び利用者保護の観点から、実効性のある検査及び監督体制を整備すること。その際、優秀な人材の確保と職員の専門性の向上を図るとともに、必要な定員の確保及び機構の整備に努めること。

 さらに、同年5月25日、参議院財政金融委員会において可決され、下記の附帯決議がなされている。

  1.    政府は次の事項について十分配慮すべきである。
  2. 一 フィンテックが急速に進展する中でIT企業等を含む多様な参加者による金融サービスのイノベーション促進を支援する観点から、電子決済等代行業者等に関する規定については、関係事業者等から十分に情報収集した上で、目的に照らして必要最小限とすること、新規参入に対する過度の障壁としないこと、報告徴収、検査等が関係事業者等の活動やイノベーションを阻害しないこと等に留意するとともに、利用者保護やシステムの安定性等にも配慮し、関係省庁が適切かつ機動的な対応を進めること。
  3. 一 オープンAPIによる金融機関と電子決済等代行業者との接続の推進がイノベーション促進、利用者保護システムの安定性等の観点から重要であることに鑑み、銀行代理業規制の適用範囲の適切な設定、金融機関および関係事業者等によるオープンAPIに向け取組の支援等の環境整備に努めること。
  4. 一 本法に基づく金融機関及び電子決済等代行業者等に対する規制については、金融機関及び電子決済等代行業者等において、相応のシステム対応等が必要になることから、施行までに適切な準備期間を確保出来るよう配意すること。
  5. 一 利用者保護の観点から、フィンテック等に関わるシステム障害等によって利用者に損害が及ぶことのないよう、金融機関及び電子決済等代行業者等に対して適切な指導等を行うこと。
  6. 一 本法に基づく制度の運用にあたっては、情報通信技術の急速な進展等を踏まえ、金融機関と金融関連IT企業等との適切な連携協働の推進及び利用者保護の観点から、実効性のある検査及び監督体制を整備すること。その際、中小地域金融機関等の検査および監督を主に担当する財務局も含めて優秀な人材の確保と職員の専門性の向上を図るとともに、必要な定員の確保、高度な専門的知識を要する職務に従事する職員の処遇の改善、機構の充実および職場環境の整備に努めること。

 同法案は、同年5月26日に参議院本会議においても可決され、同日、法律として成立し、その後公布される予定である。

 

2 金融制度WGでの議論

(1) オープン・イノベーションに向けた制度的枠組み

 今回の改正法案は、金融制度WGにおける報告内容に依拠するところが大きい。ここでは、以下のような制度的な枠組みが提案された。

  1.   • 電子決済等代行業者に登録制を導入し、当該業者が顧客から資金を預かることがないことに留意しつつ、例えば、「必要に応じた財務要件」「情報の適切な管理」「業務管理体制の整備」などを求めること。
  2.   • 電子決済等代行業者が、顧客に対して電子決済等代行業サービスを提供する場合には、金融機関との契約締結を求めること。
  3.   • オープン・イノベーションの取組みに参加しようとする金融機関においては、一定期間内に、オープンAPI[1]に対応できる体制整備に努めること。
  4.   • 金融機関は、契約締結の可否に係る判断の基準を策定・公表し、当該基準を満たす業者とは、原則として、契約を締結すること。
  5.   • 金融機関は、オープン・イノベーションの観点を踏まえたオープンAPIの導入に関する方針及び業者との間で締結する契約において顧客に生じた損失の分担を定め、公表すること。
  6.   • 猶予期間経過後であっても、金融機関との契約に基づくものであれば、業者がスクレイピングによるサービスを提供することも可能とすること。

(2) 銀行代理業者規制の取扱い~電子決済等代行業者をめぐる銀行代理業制度上の課題等

 顧客から委託を受けて決済関連サービスを提供する電子決済等代行業者が、適切かつ機動的にサービスを展開するに際して障害となりうる点として、銀行代理業規制への抵触可能性の不透明さが挙げられる。そこで、例えば、「業者のシステムを利用して顧客が口座にアクセスできる状態を作成・維持した対価としてのシステム利用料」などが銀行から電子決済等代行業者に対して支払われた場合に、これが銀行代理に該当するのか否かが明確にされることが求められている。

 


[1] API(Application Programming Interface)とは、銀行以外の者が銀行のシステムに接続し、その機能を利用することができるようにするためのプログラムを指し、このうち、銀行がFinTech企業等にAPIを提供し、顧客の同意に基づいて、銀行システムへのアクセスを許諾することを「オープンAPI」という(金融制度WG報告4頁)。

 

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