◇SH2320◇厚労省、裁量労働制の不適正な運用が認められた企業への指導及び公表 臼井幸治(2019/02/07)

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厚労省、裁量労働制の不適正な運用が認められた企業への指導及び公表

岩田合同法律事務所

弁護士 臼 井 幸 治

 

 厚生労働省は、2018年12月28日に閣議決定された「労働施策基本方針」を踏まえ、監督指導に対する企業の納得性を高め、労働基準法等関係法令の遵守に向けた企業の主体的な取組みを促すため、裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対し、都道府県労働局長による指導を実施すること、及び企業名等の公表を行うこととし、その場合の手続を定め、2019年1月25日にこれを公表した。

 これまでも実務上、労働基準監督署における監督の結果、事案の態様が、法の趣旨を大きく逸脱しており、これを放置することが全国的な遵法状況に悪影響を及ぼすと認められるものについては、都道府県労働局長が企業の幹部に対して特別に指導を行い、行政の対応を明らかにすることにより、その事実が公にされてきたところであるが、これら手続の内容が明らかではなかったため、今般その手続が明確化されたというのが、厚生労働省の公表の位置づけと思われる。

 手続の具体的な内容は後記の表に記載の通りであり、当該手続が適正に実施されることにより、企業における裁量労働制の適正な運用が図られることとなろう。

 なお、2018年6月29日、参議院本会議で可決・成立した「働き方改革関連法」(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)では、裁量労働制の適用拡大については、データの偽装問題などが発覚したため、国会の審議の対象から外され、法案から除外されることとなったが、時間外労働の上限規制の強化については、2019年4月1日が施行日とされている(ただし中小事業主[1]については2020年4月1日施行)。すなわち、現行法でも時間外労働の上限はあったものの、いわゆる36協定によりこの上限を超えることが可能であり、その場合の法定の上限が規定されていなかったが、改正後は、合計年720時間、繁忙期でも月平均80時間(1か月最大で100時間)までという法定の上限が設けられ、これを超えた時間外労働は違法となる(労働基準法36条4項)。

 そのため、法改正を受け、各企業においては、全従業員について、年間の時間外労働時間が720時間以下になっているか、繁忙月の時間外労働時間が概ね80時間以下になっているか、月100時間を超えていないかという点を厳密に管理する必要がある。

 各企業におかれては、今般の厚生労働省の取り組みいかんにかかわらず、「働き方改革関連法」の施行に備え、現在の従業員の労働時間を確認し、上限を超えているケースがある場合には、従業員間の業務の分担、業務の効率化、必要に応じた新規採用等、現在から時間外労働の上限を超えない勤務体制を整えておく必要がある。

 

<手続の具体的内容>

対象となる企業 複数の事業場を有する社会的に影響力の大きい企業(中小企業に該当しない企業をいう。)
不適正な運用実態 下記①ないし③のいずれにも該当する場合

  1. ① 対象業務以外の業務に従事
  2.   裁量労働制の対象労働者の概ね3分の2以上について、対象業務に該当しない業務に従事していること。
     
  3. ② 労働時間関係違反
  4.   上記①に該当する労働者の概ね半数以上について、労基法第32・40条(労働時間)、35条(休日労働)又は37条(割増賃金)の違反が認められること[2]
     
  5. ③ 長時間労働
  6.   上記②に該当する労働者の1人以上について、1か月当たり100時間以上の時間外・休日労働が認められること。
不適正な運用実態が認められた場合の具体的な措置
  1. ① 本社管轄の局長による指導
  2.   当該企業の代表取締役等経営トップを本社管轄の労働局へ呼び出した上で、局長より早期に法違反の是正に向けた全社的な取組を実施することを求める指導書を交付することにより指導する。
     
  3. ② 企業名の公表
  4.   上記①の指導を実施した際に、以下について公表する。
  5.   ア 企業名
  6.   イ 裁量労働制の不適正な運用、それに伴う労働時間関係違反等の実態
  7.   ウ 局長から指導書を交付したこと
  8.   エ 当該企業の早期是正に向けた取組方針


以上



[1] 小売業においては、資本金の額または出資の総額が5000万円以下、又は、常時使用する労働者数が50名以下、サービス業においては5000万円以下又は100名以下、卸売業においては1億円以下又は100名以下、その他業種においては3億円以下又は300名以下の事業主のことをいう。

[2] ・労基法第32条、第40条違反: 時間外・休日労働協定(36協定)で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせている等
   ・労基法第35条違反: 36協定に定める休日労働の回数を超えて休日労働を行わせている等
   ・労基法第37条違反: 時間外・休日労働を行わせているにもかかわらず、法定の割増賃金を支払っていない等

 

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