厚労省、裁量労働制の不適正な運用が認められた企業への指導及び公表
岩田合同法律事務所
弁護士 臼 井 幸 治
厚生労働省は、2018年12月28日に閣議決定された「労働施策基本方針」を踏まえ、監督指導に対する企業の納得性を高め、労働基準法等関係法令の遵守に向けた企業の主体的な取組みを促すため、裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対し、都道府県労働局長による指導を実施すること、及び企業名等の公表を行うこととし、その場合の手続を定め、2019年1月25日にこれを公表した。
これまでも実務上、労働基準監督署における監督の結果、事案の態様が、法の趣旨を大きく逸脱しており、これを放置することが全国的な遵法状況に悪影響を及ぼすと認められるものについては、都道府県労働局長が企業の幹部に対して特別に指導を行い、行政の対応を明らかにすることにより、その事実が公にされてきたところであるが、これら手続の内容が明らかではなかったため、今般その手続が明確化されたというのが、厚生労働省の公表の位置づけと思われる。
手続の具体的な内容は後記の表に記載の通りであり、当該手続が適正に実施されることにより、企業における裁量労働制の適正な運用が図られることとなろう。
なお、2018年6月29日、参議院本会議で可決・成立した「働き方改革関連法」(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)では、裁量労働制の適用拡大については、データの偽装問題などが発覚したため、国会の審議の対象から外され、法案から除外されることとなったが、時間外労働の上限規制の強化については、2019年4月1日が施行日とされている(ただし中小事業主[1]については2020年4月1日施行)。すなわち、現行法でも時間外労働の上限はあったものの、いわゆる36協定によりこの上限を超えることが可能であり、その場合の法定の上限が規定されていなかったが、改正後は、合計年720時間、繁忙期でも月平均80時間(1か月最大で100時間)までという法定の上限が設けられ、これを超えた時間外労働は違法となる(労働基準法36条4項)。
そのため、法改正を受け、各企業においては、全従業員について、年間の時間外労働時間が720時間以下になっているか、繁忙月の時間外労働時間が概ね80時間以下になっているか、月100時間を超えていないかという点を厳密に管理する必要がある。
各企業におかれては、今般の厚生労働省の取り組みいかんにかかわらず、「働き方改革関連法」の施行に備え、現在の従業員の労働時間を確認し、上限を超えているケースがある場合には、従業員間の業務の分担、業務の効率化、必要に応じた新規採用等、現在から時間外労働の上限を超えない勤務体制を整えておく必要がある。
<手続の具体的内容>
対象となる企業 | 複数の事業場を有する社会的に影響力の大きい企業(中小企業に該当しない企業をいう。) |
不適正な運用実態 |
下記①ないし③のいずれにも該当する場合
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不適正な運用実態が認められた場合の具体的な措置 |
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以上