実学・企業法務(第61回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
4. 販売(営業)
(3) 営業の主要機能
9) 商品物流
今日では、物流機能の専門細分化が進み、特定の機能を専門的に取り扱う企業が多い。それぞれの専門企業は、標準契約や約款で自社の取引条件を定めている。
近年、物流に特化して、多数の事業者の商品の運送・保管を請け負う業者、通信販売業者、インターネット上の店舗を利用する業者等が増えて、新たな法律課題が生まれている。企業の法務部門は、事業の実務を熟知して課題解決を図らなければならない。
以下に、主な物流関連業務を例示する。この分野には労働集約的な作業が多く、輸送・荷役・保管・流通加工等を全体として最も効率的なシステムに合理化する余地が大きいとされる。
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・ 包装
商品の保護に最適の方法が採用される。梱包材料の廃棄を適切に行なう必要がある。 -
・ 流通加工
値札・シールの貼付、商品の手直し作業等で、低コストで柔軟な労働力が求められる。 -
・ 保管
保管倉庫、冷凍倉庫、コンテナヤード等が利用され、多品種・少量・短納期化への対応が求められる。 -
・ 荷役
積み降ろし・運搬・積み上げ・仕分け・取り出し等の作業である。
全体的に労働集約的だが、機械化・自動化が進んでいる業務もある。 -
・ 輸送
輸送・積換え・保管等の全工程を効率的なシステムに構築することが求められる。
日本の国際競争力はスピード・コストの両面で低く、港湾の貨物取扱量の国際順位は低下傾向にある。陸海空の輸送システムの構成要素を次に例示する。
(陸)自動車(トラック、冷凍車、トレーラー等)、道路、給油所、休憩所等
(海)船舶(フェリー、鉱石船、タンカー、LNGタンカー等)、港、コンテナヤード等
(空)飛行機(貨物便、ヘリコプター)、空港、ヘリポート、整備場等
10) リサイクル
日本では、①循環型社会形成推進基本法(基本的枠組み法)のもとに、②3Rの推進を図る資源有効利用促進法[1]と、③廃棄物の適正処理を求める廃棄物処理法[2]等が制定されている。
①「循環型社会形成推進基本法」は、循環型社会の形成に向けた基本的な枠組みを定める法律である。
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(循環型社会形成推進基本法の概要)
本法は環境基本法の基本理念に則って、循環型社会形成の基本原則・関係者の責務・施策の基本事項を次の(1)~(6)のように定めている。(1)形成すべき「循環型社会」の姿を明示、(2)法の対象となる廃棄物等のうち有用なものを「循環資源」と定義、(3)処理の優先順を、発生抑制→再使用→再生利用[3]→熱回収→適正処分とする、(4)国・地方公共団体・事業者・国民の責務[4]を明確化、(5)政府が「循環型社会形成推進基本計画(5年毎に見直し)」を閣議決定により策定、(6)循環型社会の形成のための国の施策を明示。
②「資源有効利用促進法」は、3Rの取組を総合的に推進するための法律である。
- (3Rの内容[5])
- ⑴ Reduce(廃棄物の発生抑制) 省資源化や長寿命化といった取組みを通じて製品の製造、流通、使用等に係る資源利用効率を高め、廃棄物とならざるを得ない形での資源の利用を極力少なくする。
- ⑵ Reuse(再使用) 一旦使用された製品を回収し、必要に応じて適切な処置を施しつつ製品として再使用をする。または、再使用可能な部品を利用する。
- ⑶ Recycle(再資源化) 一旦使用された製品や製品の製造に伴い発生した副産物を回収し、原材料としての利用または焼却熱のエネルギーとして利用する。
経済産業省は省令で10業種・69品目を指定[6]し、事業者に対して3Rの取組を求めている。
また、個々の物品の特性に応じて、容器包装リサイクル法[7]・家電リサイクル法[8]・食品リサイクル法[9]・建設リサイクル法[10]・自動車リサイクル[11]法等が制定されており、法令に違反した者には刑事罰が科される。
- (注) 容器包装リサイクルや家電リサイクルのシステムには、製品の生産者が、製品の生産・使用だけでなく、リサイクル・廃棄の段階まで費用を負担する「拡大生産者責任」の考え方が取り入れられている。
なお、国が率先して再生品等の調達を推進することを定めたグリーン購入法が2001年4月に施行され、同様の取組が多くの企業・地方自治体で展開されている。
③「廃棄物処理法」は、廃棄物の排出を抑制し、廃棄物を適正に分別・保管・収集・運搬・再生・処分等して生活環境を清潔にし、その保全・公衆衛生の向上を図る法律である。
一般廃棄物(産業廃棄物以外の廃棄物)を収集・運搬できる者は、市町村・その許可又は委託を受けた者等に限定され、各市町村のごみ出しルール(分別区分、排出場所)はその市町村が定める。
市町村は、一般廃棄物処理施設を設置して収集・運搬・処分(再生を含む)するが、この他のごみ処理施設・し尿処理施設・一般廃棄物の最終処分場の設置については、都道府県知事の許可が必要である。
企業の廃棄物処理は、この③の法令に従って行わなければならない。
企業法務には、環境法令が自社の経営に与える影響を分析して、対策を起案することが求められる。法務担当者が、日頃から一人の生活者として、循環型社会形成推進基本法(12条)が定める「国民の責務」について考えていれば、この要請に応えることができる。
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〔循環型社会形成推進基本法12条「国民の責務」の要旨〕
1項) 製品の長期間使用・再生品使用・循環資源の分別回収に協力する。製品等が廃棄物等となることを抑制する。循環資源となった製品等について循環的利用を促進する。国・地方公共団体の適正処分施策に協力する。
2項) 循環資源となった製品・容器等を事業者に適切に引き渡す。
3項) 循環型社会の形成に自ら努め、国・地方公共団体が行う循環型社会形成施策に協力する。
生活環境・自然環境・地球環境の保護は人類共通の問題として、世界でさまざまな取組が展開されている。
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(例1) ISO(国際標準化機構)の環境規格
ISOには、環境に関する2種類の規格がある。
第1は、ISO14000(環境マネジメントシステム)で、審査登録制度である。ISO14000認証を取得するには、規格が要求する環境マネジメントシステムが経営管理に組み込まれてPlan→Do→Check→Actのマネジメント・サイクルが持続的に機能する仕組みが確立していることが、外部認証機関の審査により承認されなければならない。
第2は、ISO26000(社会的責任の手引き)である。この規格は、利用者の手引きとして用いられるもので、審査登録の対象ではない。この規格に挙げられた組織の「7つの中核主題」の一つが「環境」であり、その中に4つの具体的な課題(a.汚染の予防、b.持続可能な資源の利用、c.気候変動の緩和及び気候変動への適応、d.環境保護・生物多様性・自然生息地の回復)が示されている。 -
(例2) 国連気候変動枠組条約(パリ協定) 2015年12月採択、2016年11月発効
パリ協定のポイントは次の通りである。
・ 世界の長期目標として、産業革命以降の平均気温上昇を2℃未満(できれば1.5℃)に押え込む
・ 21世紀後半に、温室効果ガス排出を実質ゼロにする
・ 主要排出国を含む全ての国が、削減目標を設定し、5年毎に見直し、国連に報告する
・ 温暖化への適応の長期目標を設定し、各国が適応に取り組む
・ 先進国が引き続き資金を途上国に提供する
[1] 資源の有効な利用の促進に関する法律
[2] 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(1970年2月25日公布)
[3]「再生利用とは、循環資源の全部又は一部を原材料として利用することをいう」(循環型社会形成推進基本法2条6項)
[4] 事業者・国民の「排出者責任」を明記するとともに、生産者が、自ら生産する製品等について使用され廃棄物となった後まで一定の責任を負う「拡大生産者責任」の一般原則を明記(循環型社会形成推進基本法11条、12条)
[5] 経済産業省HPより引用して作成
[6] 〔業種・品目の例〕特定省資源業種(副産物の発生抑制)、特定再利用業種(再生資源・再生部品の利用)、指定省資源化製品(原材料等の使用合理化、長期間の使用促進、その他の使用済み物品等の発生抑制)、指定再利用促進製品(再生資源又は再生部品の利用促進)、指定表示製品(分別回収の促進のための表示)、指定再資源化製品(自主回収及び再資源化)、指定副産物(再資源としての利用促進)
[7] 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律 日本の家庭ゴミの6割(容積)が容器包装廃棄物。
[8] 特定家庭用機器再商品化法
[9] 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律
[10] 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律
[11] 使用済自動車の再資源化等に関する法律