◇SH1270◇公取委、独占禁止法に関する相談事例集(平成28年度)を公表 小西貴雄(2017/07/05)

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公取委、独占禁止法に関する相談事例集(平成28年度)を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 小 西 貴 雄

 

 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成29年6月21日付で、平成28年度に同委員会に寄せられた独占禁止法(以下「独禁法」という。)に関する相談事例のうち、主要な相談の概要を取りまとめた「独占禁止法に関する相談事例集(平成28年度)」を公表した。

 本稿では、当該事例集のうち、形式的には違反行為に該当するような行為について、実質的な検討がなされた上で独禁法上問題ないとされた事例を採り上げる。

 

(1) 本事例の概要

 本事例は、家電メーカーであるX社が高価な家電製品Aを販売するに当たって、X社としては消費者に家電製品Aの実物を手にしてもらうことで販売を促進したいと考えているものの、売れ残りリスク等を懸念する小売業者が仕入れに消極的であるという状況において、①小売業者は、家電製品Aの納入代金の支払後、いつでもこれを返品することができ、X社は返品に応じて納入代金相当額を小売業者に支払う、②在庫管理について小売業者は善管注意義務のみを負う、③消費者への販売に係る代金回収リスクについては小売業者が負う、という条件の下、小売業者が消費者に販売する家電製品Aの価格をX社が指示するという内容の契約の締結について検討がなされたものである。

(出典:独占禁止法に関する相談事例集(平成28年度)(公取委ホームページ))

 

(2) 独禁法上の考え方

 メーカーが流通業者の販売価格(再販売価格)を拘束することは、行為類型としては、独禁法上禁じられる不公正な取引方法に該当するが(独禁法2条9項4号)、公取委のガイドラインにおいて、メーカーの直接の取引先が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみてメーカーが販売していると認められる場合には、メーカーが当該取引先に対して価格を指示しても、通常、違法とはならないとされる(平成29年改正後の流通・取引慣行ガイドライン第1部第1-2(7))。

 本事例では、X社は小売業者が販売する架電製品Aの価格を指示しているため、行為類型として再販売価格の拘束に該当するものの、X社の直接の取引先である小売業者が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみてX社が販売していると認められるかが問題となった。

 

(3) 公取委の判断

 公取委は、本事例について、①商品の売れ残りリスクについては、小売業者はいつでもX社に商品を返品することができ、実質的にX社が負っていること、②在庫管理リスクについては、小売業者は善管注意義務の範囲でのみ責任を負うこと、③代金回収リスクは小売業者が負うが、消費者への販売における代金回収は、通常、現金やクレジットカードで決済されるため、実質的なリスクの負担とまではいえないことから、X社の直接の取引先である小売業者は単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみてX社が販売していると認められるとして、独禁法上問題となるものではないとの見解を示した。

 

(4) 実務上の留意点

 再販売価格の拘束は、価格に直接的に影響を及ぼすものであり、独禁法上、価格カルテルや入札談合と同様に、違法性が高いとされる行為類型である。この点、本事例においてX社が締結する契約は、小売業者に対して家電製品Aの販売価格を指示することを内容としており、行為類型としては、再販売価格の拘束に該当するものであった。したがって、X社の行為が独禁法上問題ないとされるために超えるべきハードルは低くはなかったものと考えられる。

 しかし、X社は、売れ残りリスクや在庫管理リスクを小売業者に負担させないための契約条件を適切に設定し、流通・取引慣行ガイドラインが規定する「通常、違法とはならない」場合に本事例が該当することを説得的に示して、公取委から「独占禁止法上問題となるものではない」との回答を引き出した。家電製品Aを消費者に実際に手に取ってほしいというX社の要望について、これを実現するための工夫が功を奏した結果と言えよう。

 このように、一見すると独禁法上違法にみえる取引においても、スキームや契約条件の工夫によっては、公取委から適法のお墨付きを得ることも可能である。本事例は、ビジネスにおける目的を適法に実現するため、スキーム設計や契約条項の作り込みにおいて、専門家による創意工夫が重要であることを教えてくれる事例である。

 

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