◇SH1312◇実学・企業法務(第67回) 齋藤憲道(2017/07/27)

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実学・企業法務(第67回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

Ⅲ 間接業務

2. 人事・勤労

 人事関係の業務(例えば、新規採用者配属、人事異動、出勤退社管理、残業管理、休日出勤管理、人材育成、職場の安全管理、人事考課)は、企業の全部門に存在している[1]

 その中で、人事部門は、雇用(採用から退職まで)、労働協約・就業規則・人事規程、給与、勤怠管理、人事考課、安全衛生、福利厚生、社内教育研修、組合対応等の業務を主管し、各部署との間でネットワークを構築して全社統一的な運用を実現する。

 企業が、希望退職者募集・人員整理・事業再編に伴う移籍等を行う場合は、人事部門が会社側窓口になって、対象になる従業員・労働組合等の関係者との協議を進める。

 海外に事業拠点を展開する場合は、国連・日本・現地の3つの労働条件の水準を比較して展開先の水準を適切に定めると、無用な紛争を回避できるとともに、現地で歓迎される。

 日本では、労働基準法・労働者派遣法・労働安全衛生法等の労働法令を遵守するのは当然で、多くの企業が、作業環境は良好か、時間外労働・休日労働に関する協定(通称、36協定)を遵守しているか等を日常的に自主点検している。

  1. (注) 国連が目指す労働条件の水準
    国連の世界人権宣言[2]およびILO(国際労働機関)の基本的人権規約等において、強制労働・団結権保護・団体交渉権・同一報酬・差別待遇・最低年齢・児童労働等に配慮することが求められている。

 なお、労働慣行は地域性が強いので、具体的な人事問題はそれぞれの地元の専門家の助言を得て対処することが重要である。

  1. (注) 連邦国家である米国では、州毎に労働法規が存在し、弁護士資格も州単位で付与するので、労働問題及びその対応は地域色が強い。

〔採用活動〕
 日本では、世界で例外的とされる定期採用が行われている。企業は、大学・短大・高専・高校等の新卒者の入社式(雇用契約を締結)を毎年4月初めに行い、この新卒者を確保するために、人事・採用部門が前年から新卒者募集活動を行う。学生は、これに応じて就職活動を行い、学校に設けられた就職担当が関連情報を提供する等して学生を支援する。

 企業の採用活動においては、①公平・公正な採用の徹底[3]、②正常な学校教育と学習環境の確保、③学生の学業に配慮した採用選考活動(開始時期、採用内定)、④多様な採用選考機会の提供(秋季採用、通年採用等の実施)等に配慮する[4]

 企業には、原則として人を雇い入れる自由(採用の自由)がある。

  1. (注) 採用の自由とその外縁に言及した最高裁判決[5]
    「留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない」が、「いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。」

 近年、ICT(情報通信技術)を活用して新たなビジネスが生まれている。これらのビジネスには、成長スピードが速く、グローバルに展開され、迅速な経営判断が求められるという特徴がある。これに対応するには、社内教育による新卒者の育成だけでは間に合わず、高度な技術や知識を持つ即戦力を求めて、中間採用を行う企業が増えている。

 グローバル企業では、グループの世界総社員数を設定したうえで、各事業拠点毎に社員数を割り当て、各地でそれぞれの離職率を勘案して採用活動を行う。

 これと並行して、研究開発やプログラム開発の拠点を、世界の最適地に設置する企業も増えている。

 



[1] 日常、所属の職場に出勤していない社外出向者や休職者も、就業規則の対象として管理される。

[2] 1948年12月10日に第3回国連総会で採択され、人権および自由を尊重し確保するために、すべての人民とすべての国が達成すべき共通の基準を宣言している。

[3] 男女雇用機会均等法、雇用対策法、若者雇用促進法に沿った採用選考活動を行い、学生の自由な就職活動を妨げる行為(正式内定日前の誓約書要求等)をしない。また、大学所在地による不利が生じないよう留意する。

[4] 日本経済団体連合会「採用選考に関する指針」2015年12月7日

[5] 「三菱樹脂事件」最高裁大法廷判決 昭和48年12月12日 民集第27巻11号1536頁

 

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