実学・企業法務(第70回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅲ 間接業務
2. 人事・勤労
〔人事評価〕
日本では、入社後に仕事の訓練を受けつつ業務に習熟して上の職位に昇格する例が多く、職能資格制度の格付等級と実際の担当職位が必ずしも一致しないと言われてきた。
しかし、バブル経済が崩壊した1990年代以降は、成果主義指向が強くなり、各企業で新たな人事格付け制度が導入された。
一方、米国では、職務を中心にした人事管理が行われ、その職務に相応しい者が担当者(又は、役職者)として選任される。職務を中心に考えるので、社内に適材がいなければ社外から採用することも多い。昇格・昇給に関する人事訴訟が頻発するので、客観性・公正性を主張しやすいHAY Systemで職務評価を行い、訴訟があれば、これを証拠にする企業が多い。このシステムの考え方は、米国以外でも広く採用されている。
次に、日米の評価の事例を示す。
(例1)日本の職能資格制度・・・職能格付け基準(非管理者)の例
職能毎に業務の難位度による業務基準を策定し、各社員の担当業務をこの基準に当てはめて人事上の格付けを行う。基準の妥当性及び個々の当てはめの是非については、労使間で確認する。
〈業務基準の例〉下記を基にして、各職能の具体的業務基準を策定する。
- 1級) 単純かつ定型の日常業務で、特別の訓練を必要とせずに業務処理できる。
- 2級) 業務の大部分が、定型の日常業務、又は、上級者から直接細部の指示・助言を受けて遂行する非定型業務。反復業務が主体だが、狭い範囲で多少の思考判断を必要とする。
- 3級) 業務の手順は概ね定まっているが、一定の範囲で思考判断・創意工夫を必要とする。やや複雑な業務手順又は関連分野の知識を必要とする業務が混在する。
- 4級) 特定の知識・経験をもとに、複雑な条件下での判断や創意工夫が必要とされる業務。相当複雑な非定型業務のPDCA管理を行い、対人折衝を自らの判断で行う。
- 5級) 高度専門知識、又は相当な経験と業務知識を有し、複雑な条件下で創意工夫・判断を行いつつ、PDCA管理を行う。担当業務は、単独で又は補助者を指導しつつ遂行する。
(例2)米国の職務評価制度・・・HAY System の例
Hay Systemでは、(1)各社員の職務内容[1](仕事の目的・役割)を本人と上司が記述し、(2)これに対して3要素(ノウハウの水準、問題解決力、経営寄与責任の大きさ)についてそれぞれ評価点[2]を付与し、(3)この3つの評価点の総合点を評価表[3]に当てはめて、各社員の職務等級を決める。(4) この職務等級を、各企業が定めた等級別賃金体系表に当てはめると、個人の報酬が決まる。
-
(注) 人材の確保・育成にあたっては、コンピテンシ―(職務・役割で優秀な成果を挙げる者が備える特性)が考慮される。
- Hay Systemには、次のような特徴がある。
- ・ 給与に関する米国の多数の法令や裁判例を踏まえて構築されたシステムであり、これを採用して いると、評価の適否や差別の有無等を争う人事訴訟で有効な証拠を提出できる。
- ・ 同じ評価・体系のデータを多くの企業が採用しているので、企業と社員が特定の個人の階級・給与の位置づけを理解し易い。
- ・ ホワイトカラーや管理職の職務評価に有効とされる。
近年、日本でも、社員が定年退職前に転職するケースが増え、同時に、事業拠点の海外展開も進んでいるので、米国流をはじめ各種の人事評価制度等の長所を取り入れようとする企業が多い。
人が人を的確に評価する方法は未確立であり、各企業がより良い手法を模索している。
[1] 職務内容は、業務の主要目的・役割を記述し(仕事の説明ではない)、個別業務について主要業務及び責任を負う最終成果を記述する。
[2] Hayが多数企業例を基にして作成した配点表で、さまざまな業種の企業の各職種において共用される。
[3] Hayが多数企業例を基にして作成した点数と等級の対比表で、さまざまな業種の企業の各職種において共用される。