◇SH2207◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(17) 大嵜将史(2018/11/26)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(17)

福利厚生的な手当の均衡・均衡待遇の確保

TMI総合法律事務所

弁護士 大 嵜 将 史

 

Ⅵ 福利厚生的な手当の均衡・均衡待遇の確保(3)

 本稿では、福利厚生のうち、病気休職と夏期・冬期休暇について述べる。

 

1 病気休職

 <ガイドラインたたき台の基本的な考え方>

短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、通常の労働者と同一の病気休職を認めなければならない。また、有期雇用労働者にも、労働契約の残存期間を踏まえて、病気休職を認めなければならない。

 

 <ガイドラインたたき台が示している具体的な事例>

[ 問題とならない例 ]

労働契約の期間が1年である有期雇用労働者について、病気休職の期間は労働契約の期間が終了する日までとしている。

 なお、第2章Ⅴで紹介した日本郵便東京事件(東京地判平成29・9・14判タ1449号174頁)では、正社員には、私傷病につき有給の病気休暇(結核性疾患以外は少なくとも90日)が付与されているのに対し、時給制契約社員には、無給の病気休暇10日のみが設けられているという待遇の相違について、病気休暇が、労働者の健康保持のため、私傷病により勤務できなくなった場合に、療養に専念させるための制度であることを前提とした上で、時給制契約社員に対しては、契約更新を重ねて全体としての勤務期間がどれだけ長期間になった場合であっても、有給の病気休暇が全く付与されないことは合理的理由がないとして、病気休暇に関する正社員と時給制契約社員との間の待遇の相違について不合理であると判断されている。

 

2 夏期・冬期休暇

 夏期・冬期休暇については、ガイドラインたたき台には記載されていないが、裁判例においてはその均衡待遇を巡り注目すべき判断が示されている。

 第2章Ⅴで紹介した日本郵便佐賀事件(福岡高判平成30・5・24労経速2352号3頁)では、夏期・冬期休暇が、主としてお盆や年末年始の慣習を背景にしたものであることを前提に、正社員に対し定年までの長期にわたり会社に貢献することへのインセンティブを与えるという面を有していることを認めつつも、そのような時期に同様に就労している正社員と時給制契約社員との間で休暇の有無に相違があることについて、職務内容等の違いを理由にその相違を説明することはできず、制度として時給制契約社員にこれが全く付与されないことは不合理である、と判断している。

 他方で、大阪医科薬科大学事件(大阪地判平成30年1月24日労判1175号5頁)では、正職員はフルタイムでの長期にわたる継続雇用を前提としていること、正職員の時間外労働時間数がアルバイト職員よりも年間で170時間以上長いことから、正職員に対してのみ、1年に1度、夏期に5日間のまとまった有給休暇を付与し、心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められるとして、格差を設けることは不合理でないと判断されている。

 このように、裁判例においては、夏期・冬期休暇について、正社員と非正社員の具体的な就労状況等の相違を踏まえて、その待遇の相違の合理性が判断されているため、現状において、正社員と非正社員との間で待遇に差異がある場合には、それが就労実態を踏まえた合理的なものであるか否かについて、慎重に検討する必要があろう。

 

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