公取委、平成26年税率引上げ後の消費税転嫁拒否で中日新聞社に勧告
――買いたたきの事案、増税後も従前と同額の委託料・賃料を支払う――
公正取引委員会は9月20日、平成26年4月に消費税が5%から8%に引き上げられた際に消費税転嫁対策特別措置法(平成25年法律第41号)が定める転嫁拒否の禁止規定に違反したとして、株式会社中日新聞社(名古屋本社:名古屋市中区。中日新聞・東京新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井・中日スポーツ・東京中日スポーツの発行・販売、中日文化センターの運営等)に対して勧告を行うとともに、これを公表した。
同時期の消費税引上げを巡っては9月24日、過去最大額となる支払いを勧告する大東建託らの事案についても公表(SH2810 公取委、大東建託株式会社及び大東建託パートナーズ株式会社に対する勧告 藤田浩貴(2019/10/04)既報)。9月18日に開かれた事務総長の定例会見では、事務総長として「(公取委では)消費税率10%への引上げが予定されている今年度におきまして、上半期に重点的に転嫁拒否行為の未然防止のための各種の施策を実施してまいりました」と各種の取組みを詳細に述べており、今般の一連の勧告・公表によっては10月1日からの消費税率引上げを前に注意を促す効果も見込まれる。
中日新聞社への勧告によると、同社は(1)日刊新聞等に掲載する記事、イラスト、漫画等の原稿作成業務を個人である事業者、人格のない社団等である事業者または資本金の額もしくは出資の総額が3億円以下である事業者(以下「本件原稿作成事業者」という。以下同様)に継続して委託し、(2)日刊新聞等の輸送業務を本件輸送事業者に継続して委託し、(3)カルチャー教室の受講者に対する講師業務を本件委託講師に継続して委託し、また(4)事務所等を本件賃貸人から継続して賃借してきた。これらの委託料および賃料は税込価格で支払われていたが、上記(1)〜(3)の本件原稿作成事業者・本件輸送事業者・本件委託講師に対しては消費税引上げ後においても消費税率引上げ分を上乗せしないまま、各業務について引上げ前と同額に定めた委託料を支払い、(4)の本件賃貸人にも同様に消費税率引上げ分を上乗せせずに引上げ前と同額の賃料を支払ってきた。
消費税転嫁対策特別措置法では、大規模小売事業者や一定の特定供給事業者から継続して商品または役務の供給を受ける法人事業者に対し「商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」を禁止しており(同法3条1号後段)、本件はいわゆる「買いたたき」の事案となる。特定供給事業者が多岐にわたって計約2,500名にのぼる点、1事業者当たりの転嫁拒否額は多額とはみられない点が特徴的といえる。
公取委の勧告では中日新聞社に対し、①各委託料については平成26年4月1日に遡ってすみやかに上乗せした額まで引き上げ、当該引上げ分相当額を事業者に支払うこと、賃料については同様に上乗せした額まで引き上げ、当該引上げ分相当額を賃貸人に支払うことを求めており、勧告の総額は約1億4,500万円とされる。
公取委はまた、②今後,消費税の転嫁を拒むことのないよう自社の役員・従業員に勧告の内容について周知徹底するとともに、消費税転嫁対策特別措置法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講じること、③上記①・②に基づいて採った措置について本件事業者等に通知すること、④上記①〜③に基づいて採った措置についてすみやかに公正取引委員会に報告することを求めており、中日新聞社は報道各社の取材に対し「差額分はすみやかに支払う」旨など、コメントしている。