◇SH1393◇日本企業のための国際仲裁対策(第53回) 関戸 麦(2017/09/14)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第53回 国際仲裁手続の終盤における留意点(8)-ヒアリング後の手続

4. 最終主張書面の提出

 ヒアリング後の手続として、まず挙げられるのは、最終主張書面(post-hearing brief)の提出である。前回(第52回)述べたとおり、この最終主張書面は、一般的に、ヒアリングの結果を踏まえて、争点に絞って記載される。

 提出の時期については、申立人(Claimant)及び被申立人(Respondent)が同時に提出することが一般的である。

 

5. コストの提出

 コストの提出(cost submission)とは、申立人及び被申立人がぞれぞれ、自らが仲裁手続に要したコストの額を仲裁廷及び相手方当事者に伝えるものである。最終の仲裁判断(final award)では、通常、仲裁手続に要したコストを申立人と被申立人のいずれが負担するかを具体的に金額を示した上で定めるため、その判断の前提として、コストの提出が一般的に行われる。

 ここでいう「コスト」の範囲について、ICC(国際商業会議所)の仲裁規則は、以下のものを含むと定めている(38.1項)。

  1.  •  仲裁廷の報酬及び費用実費(旅費等)
  2.  •  ICCの管理手数料
  3.  •  仲裁廷が選任した専門家の報酬及び費用実費
  4.  •  各当事者が負担した合理的な弁護士報酬その他の仲裁手続のために要した費用

 このうち最後のものは、仲裁廷及び仲裁機関のいずれも把握していないため、各当事者から仲裁廷への情報提供が必要となり、これが、上記のコストの提出である。

 コストの提出に対しては、それぞれ相手方当事者に反論の機会が与えられる。反論の切り口としては、仲裁手続のための費用とは認められない、あるいは合理的な費用とは認められないといったものが考えられる。この反論は、通常、書面で提出され、口頭での議論は行われない。

 コストの提出に際しては、どこまで詳細に情報を提供するか、また、根拠資料をどこまで提供するかが問題となる。例えば、弁護士報酬の請求明細には、弁護士依頼者間の秘匿特権(attorney-client privilege)にも関わる、秘密情報が記載されるため、これを仲裁廷及び相手方当事者に提供することは憚られる。情報及び資料の提供の範囲については、当事者間での協議か、仮に協議がまとまらなければ、仲裁廷の判断を仰ぐことになるが、弁護士報酬の請求明細等は提供の範囲に含まれず、差し支えのない範囲とされることが多いと思われる。

 なお、コストの提出の対象となるのは、上記の「各当事者が負担した合理的な弁護士報酬その他の仲裁手続のために要した費用」であるところ、その内容としては、例えば、当事者が依頼した弁護士の報酬及び費用実費のほか、ヒアリングのために支出した会場代、通訳代、速記官代、法務部門の担当者の旅費が挙げられる。また、法務部門の担当者が費やした時間についても、一定の時間単価を設定して金銭的に評価した上で、コストの提出に含めることもある。

 但し、コストの提出の対象であるとしても、勝訴当事者が敗訴当事者に対して、常に請求できるということではない。勝訴当事者の弁護士報酬を、敗訴当事者に負担させる制度のことを、弁護士費用の敗訴者負担というところ、この制度は世界全般で認められている訳ではない。例えば、日本や米国では基本的に認められておらず、英国では認められている。国際仲裁では、認められる場合と認められない場合とがあり、当事者間の仲裁合意で弁護士費用の敗訴者負担の採否について定めてあればそれに従うが、そのような定めがなければ、仲裁廷の裁量によるというのが基本である。但し、筆者の印象では、弁護士費用の敗訴者負担が採用される、すなわち、勝訴当事者の弁護士報酬を、敗訴当事者が負担するよう仲裁廷が命じる場合の方が、そうでない場合よりも多いと思われる。

 

6. 審理終結

 当事者からの書面等の提出が終わると、仲裁廷は、審理の終結(closing of the proceeding)を宣言することになる。この宣言の後は、当事者の主張立証は、基本的に行えないことになる。

 もっとも、特段の事情があり、仲裁廷が認めた場合には、審理の終結後であっても最終の仲裁判断前であれば、追加の主張立証が例外的に可能となるが(ICC規則27項等)、特殊な場面であり、通常は審理終結後の主張立証の機会は期待できない。

 また、ICC規則は、審理終結に際して、仲裁廷に対し、仲裁判断のドラフトをICCの事務局に提出する時期を定めることを求めている(27項)。審理終結後は、仲裁廷が仲裁判断の書面作成に注力することになる。

以 上

 

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