◇SH1443◇実学・企業法務(第86回) 齋藤憲道(2017/10/19)

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実学・企業法務(第86回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

Ⅰ 経営管理システムの構築に必要なもの

 ヒトを観察するとき、何に着目するかは、目的によって異なる。

さまざまな方法の観察から得るデータの意味はそれぞれ異なるが、それを総合すれば、特定の人物の全体像の把握が可能になり、適切な措置(手術、病気治療、学力向上、指名手配等)を行うことができる。

  1. 〔観察方法の例〕
    外観等(顔立ち、スタイル、声、話し方等)、身体計測値[1]、画像・映像[2]、運動能力[3]、持病・体質(既往症、アレルギー反応、免疫等)、病状(視診、触診、問診等)、遺伝子、履歴(学業成績、学歴、職歴、賞罰等)、特技、人物(性格、嗜好等)

 会社経営もヒトの観察と同じで、入手すべき情報とその使い方は、使用目的によって異なる。

  1. (例) 経営管理の4つの仕組みを、例えば次のように連想すれば、理解しやすいだろう。
    いずれも、1つの企業(又は、1人の人物)を対象にして行う観察である。
  2.    コーポレート・ガバナンス: X線写真で見る人骨
  3.    内部統制システム:     中枢神経・末梢神経を含む全身の神経系統図
  4.    リスク・マネジメント:   アレルギー検査と対策・治療
  5.    コンプライアンス確保:   免疫力判定検査と対策

 経営管理システムを構築する際の留意事項を次に示す。

 

 1. 社会の要請に応える

 近年、会社を管理する仕組みについては、(1) 会社の業務執行を「社会の目線で判断・監視」する機能を強化し、(2) 会社の実態を正しく理解できる情報について「開示・提供する範囲を拡大し、その正確性を担保する」ことが、社会から求められる。

 一方で、(3) 会社とステークホルダー(株主、投資家、取引先、顧客等)がそれぞれの考え方・方針等を相手方に示して、「相互理解」を深め、互いに良い刺激を与えようとする動きが活発になっている。

 以下に、この(1)~(3)の具体例を示す。上場会社においては、(2)と(3)の新たな動きが見られる。

 (1) 社会の目線で判断・監視

  1.  〔具体例1〕法整備
    監査役・会計監査人・社外役員(社外取締役、社外監査役)等について、下記①~④を強化・拡大。
    ① 地位(選任・解任方法、任期等)
    ② 構成(人数、資格要件、集合体の活用等)
    ③ 権限(報告徴収、意見、差止請求、損害賠償請求等)
    ④ 業務範囲(単独会社/グループ会社、業務全般/会計限定、妥当性/適法性等)
  2.  〔具体例2〕第三者の意見重視
    ① 事実確認や経営判断の妥当性を検証するために行う第三者委員会の調査報告等
    ② 機関投資家との対話を通じて得る意見

 (2) 開示する情報の「範囲拡大」と「正確性担保」

  1.  〔具体例1〕開示・提供する情報の充実を図る法整備
    ① 株主に開示・提供する情報(株主総会招集通知記載事項、事業報告書記載事項、法定議事録の閲覧等)
    ② 資本市場に提供する情報(有価証券報告書、内部統制報告書等)
  2.  〔具体例2〕情報の正確性の担保
    ① 監査役・会計監査人等の監査報告の厳格化(第三者の視点で、情報が正しく、判断が合法であったことを確認)
    ② 開示情報を作成する者(社長等の責任者)が確認書を提出(「知らなかった」とは言わせない)

 (3) 対話を通じて「相互理解」

  1.  〔具体例〕
    ① 上場会社が東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」の受入れの可否を表明
    ② 機関投資家が「日本版スチュワードシップ・コード」の受入れを金融庁に通知して公表
    ③ 各会社が独自に判断して、第三者認証を取得、又は、環境報告書等のCSR情報を公表

     
  2. (注)「コーポレートガバナンス・コード」と「日本版スチュワードシップ・コード」は、企業活動と資本市場の間で建設的な対話を行うための「車の両輪」の関係にあり、経済全体の発展・成長に資することを目的とする。


[1] 身長、体重、視力、聴力、体温、血圧、脈拍数、血液検査結果等

[2] 外観写真(顔、全体、前後、左右等)、体内のX線画像・MRI画像(骨、内蔵、脳等)、監視カメラ記録等

[3] 走力(短距離、中距離、長距離)、跳躍力(幅跳び、垂直飛び)、投てき力、泳力等

 

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