◇SH3841◇インドネシア:融資及び担保に関する法制の概要(2) 酒井嘉彦(2021/11/30)

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インドネシア:融資及び担保に関する法制の概要(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

(承前)

4. インドネシアにおける担保法制の概要 [1]

⑴ 民法上の質権と信託担保権

 インドネシア法上、インドネシア国外の貸付人がインドネシア国内の借入人から担保権を取得することは禁止されていない。以下では、インドネシアにおいて現行法上存在する典型的な担保権のうち、民法上の質権及び信託担保権について概説する。これらの他に、不動産に関する担保権として抵当法上の抵当権も実務上利用されているが、紙幅の制約上、本稿では割愛し、その説明は別の機会に譲りたい。

 

 ① 民法上の質権(Gadai)

  1.    質権は民法に基づく占有担保権であり、日本法上の質権に類似する担保権である。もっとも、信託担保法が制定された後は、占有を移転することなく担保権を設定することができること、信託担保権の方が登録制度が導入されている点で法的安定性が高いことなどから、実務上は信託担保権が利用されることが多い。実務上、質権は、担保対象物が株式又は銀行口座である場合に利用されている。
  2.  
  3.    質権を設定する場合、質権設定者は、第三債務者(担保対象物が株式の場合は当該株式を発行する会社、銀行口座の場合は当該銀行)に対して、質権が設定された旨を通知することになるものの、第三債務者の承諾は必要なく、また、政府当局への登録も要しない。かかる通知の後は、質権設定者は、担保対象物の売却や担保対象物に関する訴訟の提起等、質権者に損害を与え得るような一定の処分・行為を行うことが制限される。
  4.  

 ② 信託担保法上の信託担保権(Fiducia Security)

  1.    信託担保権とは、債務者が担保対象物を債権者に担保目的で譲渡し、債権者の委託を受けて当該担保対象物の占有を保持する担保権であり、債権者はかかる担保対象物から優先弁済を受けられるという点で、日本法における譲渡担保に相当する担保権である。もっとも、後述の通り、信託担保法により、その設定・効力発生に係る要件及び手続や、担保の実行方法のメニューが法定されている。有形・無形の動産(債権を含む)等が信託担保権の対象となる。信託担保権の被担保債権は、既発生の債権又は将来発生する特定債権又は担保権の実行時点で確定され得る債権であり、いずれにしても実行段階で特定が可能でなければならない。質権と異なり、担保対象物の占有を移転せずに担保権を設定し、債務者が担保対象物を引き続きその事業活動に利用することができるため、実務上、機械、設備、在庫、債権等を担保に取る場合に広く利用されている。
  2.  
  3.    信託担保権の設定には、公正証書の形式による信託譲渡証書の作成、及び登記所での登録が必要である。信託譲渡証書には、①債務者及び担保権者の詳細、②被担保債権(貸付債権)に関する情報、③被担保債権の額、④担保対象物の詳細、及び⑤担保対象物の価値等が記載される。登記所での登録は、実務上、インドネシア公証人によりオンラインで行われる。信託譲渡証書が登記所にて受理されると、信託譲渡証明書が発行される。日本の譲渡担保等の担保権と異なり、かかる登記所での登録プロセスが完了して初めて信託譲渡の効力が発生する。担保対象物が、債権等の無形資産である場合には、債務者(担保権設定者)は、第三債務者に対し、当該債権について担保権者のために信託担保権が設定されたことを通知する必要があり、かかる通知により、債務者が期限の利益を喪失した場合、担保権者は第三債務者から直接取り立てる権利を有する。なお、信託担保法上、同一の担保対象物上に複数の信託担保権を設定することも認められており、この場合、信託担保権の優先関係は登録の先後により決する。

(3)につづく

 


[1] 本稿におけるインドネシアの担保法制の概要の記載においては、当事務所の福井信雄弁護士が法務省法務総合研究所国際協力部の委託を受けて報告した「インドネシアにおける強制執行、民事保全及び担保権実行の法制度と運用の実情に関する調査研究」を参考にしている。

 


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(さかい・よしひこ)

2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。

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