◇SH1454◇出光公募増資差止請求仮処分事件決定 中村直人(2017/10/24)

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出光公募増資差止請求仮処分事件決定

中村・角田・松本法律事務所

弁護士 中 村 直 人

 

1 はじめに

 注目を集めた出光の公募増資差止請求仮処分事件の地裁及び高裁の決定文が、裁判所のホームページで公表された。これから多くの判例評釈が出されるものと思われる。ここではいくつかの論点について指摘することとしたい。

 

2 両決定の判断

 まず両決定は、基本的には同じ判断をしており、従来からの主要目的ルールに沿った判示をしている。

 本件は、平成27年7月、出光が、昭和シェルとの合併・統合を目指して昭和シェルの株式を外資から1500億円あまりで取得することを公表したが(取得は平成28年12月)、株式の3分の1を保有する創業家側が反対し、平成29年6月の定時総会でも取締役選任議案の一部に反対したが、出光は、平成29年7月に最大4800万株の公募増資(手取額約1385億円)を決定した。

 主要目的ルールでは、「不当な目的」による新株発行は「著しく不公正な方法」であるとされる。そして支配権獲得・確保目的は、不当な目的であるとされる。本件は、創業家側は3分の1の議決権を有しているが、過半数支配は持っていない。経営陣側は、特段の支配権を有しているわけではないし、それを獲得しようとして自分達のグループに割当をしたわけでもない。その意味では、支配権獲得争いではなく、事の本質は、昭和シェルとの統合をすべきかどうか(どちらが企業価値が向上するか)という争いである。

 「不当な目的」がいけないとされるのは、アメリカ法ではそれが信認義務に反するからだとされている。日本的にいえば、自己の個人的な利益のためにその有する権限を行使することは忠実義務違反であり、よって「著しく不公正な方法」となる。ならば、本件のような企業価値向上策についての意見の対立は、忠実義務違反となるのであろうか。

 地裁決定は、「このような目的は、会社法が本来取締役会に新株発行権限を付与した趣旨とは異なる」とした上(やや権限分配論的な判示か)、定時株主総会で取締役選任議案を巡って創業家が反対投票をしたことや、統合に失敗すれば市場価格より高値で昭和シェル株式を取得したことについて責任追求される可能性もあったことを指摘して、一種の権限濫用行為を誘発する不当な目的がある(ここは忠実義務違反論的な判示か)とした。

 

3 「主要目的ルール」の限界

 主要目的ルールは、適切な目的と不当な目的が同居する場合、どちらが主要な目的であるかによって、著しく不公正かを判別する。債権者側で、不当な目的が主要であることを疎明する。本件では、決定は、会社側が戦略投資として主張した10件の投資資金の使途について、いずれも必要性・合理性に疑問が残るとし、しかし昭和シェル株式取得のための借入金の一部を返済する目的については、これを認めた。

 ブリッジ・ローンを劣後ローンに切り替える予定であったものが、統合が不透明化したことによって調達に支障が出ていたという(一般的な財務体質の改善の必要性だけで調達目的を認めたわけではない)。そしてどちらが主要であるかについては、方法が公募増資であることや、直ちに株主総会を招集する可能性が高いとはいえないこと、借入金の返済期が迫っていることなどから、主要な目的が自らを有利な立場に置くことと断ずるに足りる証拠はないとした。

 主要目的ルールは、いつもこの問題に逢着する。どちらが「主要」であるかなど、本人が自白でもしない限り疎明できることはほとんどない。

 

4 CGコード時代の社外役員の立ち位置

 以上は、古い時代の論点である。しかし本事案は、CG(コーポレート・ガバナンス)コード以来時代が変わったことを感じさせる。

 これらの判示は、今の時代にあっては、新しい問題を引き起こす可能性がある。主要な目的が本当は何であるか、社内の人間はもちろん知っている。このような場合、社外役員はどのような立ち位置にいるのであろうか。本件でも、創業家が統合に反対して以降、どうすればよいか社内でいろいろ検討したであろうし、社外役員もその内容を聞いていたかも知れない。社外役員は、どうすればよいのであろうか。

 また、会社法210条2号該当性の疎明はされなかったが、しかし不当な目的も併存していると裁判所に認定されてしまった。これは取締役の善管注意義務・忠実義務上、違反なのかどうか。監査役を含めた社外役員は、どうすればよいのであろうか。

 さらには、決定では、昭和シェル株式を高値で取得したことについて責任追求される可能性があるとか、直ちに株主総会で昭和シェルとの合併が議題になることを窺わせる証拠はない等と判示されているが、それぞれどう対処するのか。

 社外役員が多数存在する時代は、主要目的ルールも透明性が高まり、違う位置づけになるのかも知れない。

以上

 

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