◇SH3751◇ベトナム:新労働法における賃金に関する変更点と新型コロナウイルス感染症(1) 井上皓子(2021/09/13)

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ベトナム:新労働法における賃金に関する変更点と
新型コロナウイルス感染症(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 今回は、新法における賃金に関する主要な変更点を解説します。これは、新型コロナウイルス感染症との関係で実務的にも重要な点が含まれるものと思います。なお、弊職らが作成した新法の日本語仮訳が、日本貿易振興機構(ジェトロ)のウェブサイトで公開されていますのでご参照下さい。

 

 休業中の労働者に対して支払われる休業賃金について、新法第99条は旧法の規定を改正しました。具体的な変更点は以下のとおりです。

  旧法 新法

雇用者の故意・過失による場合

労働者は賃金全額の支払いを受ける。

労働者は労働契約に定める賃金全額の支払いを受ける。

労働者の故意・過失による場合

当該労働者その者は賃金の支払いを受けない。

ただし、休業しなければならなかった者と同じ事業場の他の労働者は、両当事者が合意した金額で賃金の支払いを受けるが、政府が定める地域別の最低賃金額より低いものであってはならない。

当該労働者その者は賃金の支払いを受けない。

ただし、休業しなければならなかった者と同じ事業場の他の労働者は、両当事者が合意した金額で賃金の支払いを受けるが、最低賃金額より低いものであってはならない。

故意・過失によらない停電、断水、天災、火災、疫病、経済的な理由などによる場合

  1. ・ 要件は「使用者又は労働者の」故意・過失によらない場合
  2. ・ 休業中の賃金は両当事者の合意に基づく

ただし、政府が定める地域別最低賃金を下回ってはならない。

  1. ・ 要件は「使用者」の故意・過失によらない場合
  2. ・ 休業中の賃金は両当事者の合意による

ただし、

  1. a. 休業が14営業日以下の場合:最低賃金を下回ってはならない
  2. b. 休業が14営業日を超える場合:最初の14営業日については、最低賃金を下回ってはならない

 

 この中で特に注目すべき内容は、使用者の故意・過失によらない天災・疫病等の理由に基づく休業をする場合の賃金について、旧法下では、地域別最低賃金を下回らない範囲で労働者と合意した水準の賃金を支払うものとされていたのに対し、新法では、最初の14営業日については地域別最低賃金を下回らない範囲であることが必要ですが、それを超える日数については、両当事者が合意すれば最低賃金より低い金額でもよいとされている点です。

 なお、ベトナム労働法においては、原則として労働者の賃金の減額・不払いは禁止されていますので、法第99条3項2号・3号に該当しない場合は、たとえ労働者が就労していないとしても、100%の賃金を支払う必要があることになります。

(2)につづく

 


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(いのうえ・あきこ)

2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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