◇SH2556◇租税における公平の実現(9) 饗庭靖之(2019/05/24)

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租税における公平の実現

第9回

首都大学東京法科大学院教授・弁護士

饗 庭 靖 之

 

第3 租税公平主義から国際的な租税回避を防ぐための課税制度

2 タックス・ヘイブン対策税制(CFC税制)

(1) タックス・ヘイブンの問題点

 タックス・ヘイブンは税率が低いため、当該地に課税権があることとすることにより、租税回避を行うことができる。また、タックス・ヘイブンは金の流れや取引についての情報が遮断され、脱税が行われやすく、国際取引が仮装されるという問題がある。

 本来、国ごとの課税における税率に差があると、ほかの国よりも低税率の課税を受ける事業は、税率が低いことにより課税を免れた利益を、事業への投資、株主への配当、経営者や社員への報酬に充てることができるため、税率の高い国で行われる事業よりも有利な競争条件を享受することができる。これは国際的な事業活動の競争条件が整備されていないことを意味するため、国際的な企業活動の競争環境を整えるためには、国家主権の下にある課税権を拘束し、各国の課税権行使における税率のハーモナイゼーションが図られる必要がある。

 この国家主権の下にある課税権を濫用して低税率を実行しているというべきものがタックス・ヘイブンであり、各国の課税権行使における税率のハーモナイゼーションを図る見地からは、タックス・ヘイブン国により高い税率に変えていくように働きかけていくことが必要と考えられる。それが実現できるまでの間、租税回避目的のタックス・ヘイブンを利用する行為に対して、租税回避を無効化する対策を有効に機能させることが必要である。

(2) タックス・ヘイブン対策税制の概要

 タックス・ヘイブン対策税制(租特40条の4以下、66条の6以下)は、わが国居住者及び内国法人、特殊関係非居住者が合わせて50%を超える株式を直接・間接に所有している外国法人(外国関係会社)の所在国の法人税率が20%未満のとき、居住者及び内国法人等の持株数に対応する所得を、居住者、内国法人等の収益とみなして、総収入金額ないし益金に算入し、我が国の課税の対象としている。

 居住者及び内国法人等の受け取る配当に対しては、居住者及び内国法人等の所得課税がなされるが、外国法人の利益自体を居住者及び内国法人等の所得とみなすと、二重課税となり、居住者及び内国法人等に加重な負担をかけることになるので、外国法人からの配当は損金に算入される。

 タックス・ヘイブン対策税制は、租税回避の防止を目的とするものであるから、特定外国子会社が真正の事業活動を行っている場合に適用しないため、適用除外要件が定められており、特定外国子会社が、本店または主たる事業所の所在する軽課税国に、事業を行うのに必要な事務所・店舗その他の固定施設を持ち、事業の運営を自ら行っており、①事業が卸売業、銀行業などの一定の事業のときは、関連者以外との取引が各事業年度に収入金額の50%を超えている場合、②それ以外の事業を当該国で行っている場合は、この制度の適用の外におかれている。

(3) タックス・ヘイブン対策税制の拡充について

 ア 法人税率20%超の扱い

 平成22年度改正まではタックス・ヘイブン対策税制の軽課税国の認定基準の実効税率は25%以下であったが、諸外国が競って法人税率を引き下げる傾向があるため、20%以下に引き下げられたという経緯がある。しかし、各国の実効税率は、適正な水準に国際的にハーモナイズさせていく努力がなされるべきことからは、20%を超える税率のときには軽課税でないとは言い切れない。20%を超える税率の国においても、もっぱら当該税率の適用を受けようとして、外国法人の50%を超える株式を直接間接に所有すると認められるときは、タックス・ヘイブン対策税制の対象としなくてよいのかの問題がある。

 イ 株式保有が50%以下の扱い 

 タックス・ヘイブン対策税制が、租税回避の目的の軽課税国での会社の事業所得を、株式を保有している限度で、我が国法人の所得とみなしていることからは、直接間接に所有している外国法人の株式を50%超の場合に限定せず、50%未満の株式保有の場合においても、もっぱら当該税率の適用を受けようとして行う株式保有については、タックス・ヘイブン対策税制の対象としなくてよいのかとの問題がある。

 ウ 軽課税国に会社を移転する租税回避の扱い

 法人を直接外国に移転することできないが、軽課税国に子会社を設立し、会社財産を子会社に移すことによって、実質的に軽課税国に会社を移転して租税を回避することはできる。

 このため、会社が、現物出資、三角合併や三角株式交換等により、株主構成を変えずに海外に親会社を設立するコーポレート・インバージョン(親子会社の逆転)を実行し、会社の本社機能や重要な会社事業を軽課税国に移転することにより租税を回避することを防止する必要がある。

 合併会社等の外国100%親会社の株式を被合併会社の株主に交付した場合も、適格合併等として、被合併会社については移転資産の譲渡損益について課税繰延がみとめられ、また、被合併法人等の株主については、再編時の株式の譲渡損益の課税繰延が認められているが、租税回避防止措置として、次の措置がとられている。

 a 被合併法人と合併法人間に特定支配関係(50%超)があり、被合併法人等の株主に交付される株式が特定軽課税国外国法人の株式であるとき、適格合併と認めず、被合併法人等の株主に交付される株式の価額は、株式譲渡所得による収入とみなして譲渡所得課税を行う。

 b 内国法人の株主が、内国法人の親会社として軽課税国外国法人を設立して株主となったときは、軽課税国外国法人に留保する利益を株主の擬制収入金額として、総収入金額ないし収益に加算する。

 この租税回避防止措置については、20%を超える税率のときには軽課税でないとは言い切れない。20%を超える税率の国においても、もっぱら当該税率の適用を受けようとして、外国法人の50%を超える株式を直接間接に所有すると認められるとき、そして、直接間接に所有している外国法人の株式を50%超の場合に限定せず、50%未満の株式保有の場合においても、もっぱら当該税率の適用を受けようとして行う株式保有についても租税回避防止措置の必要がないかとの問題がある。

 エ 個人の軽課税国への移動の扱い

 タックス・ヘイブンを含めた軽課税国へ個人が出国して、出国地において所得税が軽課税されるときは、当該個人の我が国における経済活動に対しては、わが国が課税しなくてよいのかとの問題があると考えられる。

 日本出国後の個人が、日本国内に恒久的施設(PE)を有しない場合、非居住者として、国内の事業、資産の運用・保有・譲渡から生ずる所得と土地譲渡代金による所得とその他の源泉徴収される課税対象所得のみが、国内源泉所得として、わが国で課税される。しかしそれ以外の日本での活動による所得が課税されないことは、それらの所得についてタックス・ヘイブンを含めた軽課税国で課税され、もしくは課税されないことを目的として、軽課税国に出国する可能性があるため、当該個人の日本における経済活動から得られる所得に対して課税の必要があるかとの問題がある。

 

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