◇SH1536◇標準規格必須特許の取扱いに関する欧州委員会ペーパーの公表(上) 平山賢太郎/石原尚子(2017/12/07)

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標準規格必須特許の取扱いに関する欧州委員会ペーパーの公表(上)

伊藤 見富法律事務所

弁護士 平 山 賢太郎

弁護士 石 原 尚 子

Ⅰ 概 要

 欧州委員会(EC)は、2017年11月29日(現地時間)、「Setting out the EU approach to Standard Essential Patents」と題するペーパーを公表し、2015年の欧州司法裁判所によるHuawei Technologies Co. Ltd. v. ZTE Corp 事件先決裁定(Huawei/ZTE判決)以後、議論が続いていた標準規格必須特許の取扱いについて考え方を提示した。

 

Ⅱ 目 的

 本ペーパーは、その目的として、

  1. ⑴ 標準規格必須特許の実施者にとって理解しやすく、予見可能性の高いライセンスについてのルールを提供し、標準規格必須特許技術へのアクセスを促進すること、
  2. ⑵ 特許権者の研究開発及び標準化活動への投資に応え、良質な技術を標準規格に提供する動機付けを与えること、

の2点を掲げ、実施者、特許権者の本来相対立する利害のバランスをとり、効率的な標準規格必須特許システムを構築することを目標としている。

 

Ⅲ 3つの提案

 上記の目的から、本ペーパーは、

  1. 1. 標準規格必須特許にかかる情報提供のあり方(透明性)、
  2. 2. FRANDライセンス条件についての一般的な準則、
  3. 3. 予見可能性を担保したエンフォースメント

という3つの柱で、実施者、特許権者、そして標準化機関といった標準規格必須特許を取り巻く利害関係者が採るべきプラクティスを示している。

 なお、本ペーパーは、法的拘束力を有するものでも、欧州司法裁判所によるEU法の解釈に何らかの影響を与えることを企図するものではなく、ECによる競争法の適用を拘束するものでもない。

 3つの提案の概要は、以下のとおりである。

 

1.  標準規格必須特許に係る情報についての透明性の向上

 本ペーパーは、現状標準化機関によって維持されている標準規格必須特許についてのデータベース掲載の情報は透明性を欠いており、また、標準規格必須特許の標準規格における必須性の判断も、宣言主体である特許権者のみに依拠しているという認識を示したうえで、実施者、特にIoTに関連して新たに標準規格必須特許ライセンスを必要とすることとなる者が、効率的かつ分かりやすいライセンス交渉に臨めるよう、以下のとおり透明性向上のための提言を示している。

  1. ① 標準化機関における標準規格必須特許データベースの改善
  2. ② ライセンス交渉促進のための情報整備

 -1:採るべき対応として、(ア)特許権者が、必須宣言を行った後、標準規格が最終化する段階で、また、標準規格必須特許が特許登録査定を受ける段階で、特許権者が改めて必須宣言の内容を見直すこと、(イ)特許権者が、当該標準規格必須特許が標準規格のどの部分に対応するものかを特定し、明らかにすること、(ウ)標準化機関が、標準規格必須特許に関する争訟の結果に関する情報を集積すべく、特許権者・実施者双方をリードすること、

 -2:第三者機関による標準規格必須特許の必須性の検証

 なお、本ペーパーは、実際の実施については、今後の主要な標準規格(5Gなど)による対応から段階的に進めるとしており、例として、標準規格必須特許ポートフォリオが、上記透明性の基準を遵守している旨の証明書の発行や、標準化機関が、標準規格策定時及び標準規格必須特許登録査定時に必須宣言の内容を確認することとし、その費用を徴収するといった方法が検討されている。

 また、本ペーパーは、特許庁等を含めた独立機関による標準規格必須特許の必須性の検証について、今後、いくつかの技術分野の標準規格必須特許について、試行を進める旨の方針を明らかにした。

 

2.  FRANDライセンス条件についての一般的な準則

 標準規格必須特許を保有する特許権者は、その必須宣言により、当該標準規格必須特許について、公平、合理的かつ非差別的な(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory。「FRAND」)条件でライセンスする旨誓約する。

 FRAND条件が具体的にどのようなものか、という点は実務上常に議論されてきたところであるが、本ペーパーでは、FRAND条件の内容について、様々な技術分野、産業分野があるなか、one-size-fit-allな解法は存在しないとして、原則として当事者間の協議に委ねた。そのうえで、本ペーパーは、協議についての指針として以下の事項を掲げている。

  1. ① 標準規格必須特許の価値評価の指標
  2.    本ペーパーは、標準規格必須特許の価値を評価するにあたって、当該特許技術そのものを評価の基礎とし、標準規格に含まれることによって生じうる価値を考慮しないという指針を示している(標準規格のために開発され、標準規格の存在なくしては価値を生じない場合は、標準規格内における重要性の比較衡量による)。さらに、いわゆるロイヤルティ・スタッキングを回避する観点から、標準規格全体の価値が考慮されるべきであるとされており、これと異なり個々の標準規格必須特許について、標準規格を離れてそれぞれ独立にFRANDとなる価値が検討されることに対しては、否定的な姿勢が示されている。
  3.    また、ライセンス期間の経過に応じて、標準規格必須特許の価値は逓減するとの考え方を採っており、このことは、当該特許技術が搭載された製品が市場で成功したか否かにかかわらないとされている。
  4.    一方で、本ペーパーは、標準規格必須特許の価値設定は、特許権者の開発意欲を維持するものであるべきことにも言及している。
     
  5. ② ライセンスの効率性と非差別性について
  6.    本ペーパーでは、同じ状況にある者を同等にあつかう、という原則を維持しつつ、産業分野ごとに事情が異なることから、合理性の観点から、ライセンスの方法として、クロスライセンスやポートフォリオライセンスも支持されうるとしている。また、全世界的に展開する製品等に関しては、そのライセンスにつき、国別のライセンスではなく、グローバルでのライセンスが効率的であり、FRAND条件にも適合するとしている。
     
  7. ③ EU競争法に適合したパテントプール、パテントプラットフォーム構築
  8.    本ペーパーは、パテントプール等について、必須性の審査、累積ロイヤリティについての明確性向上等によって標準必須特許ライセンスをめぐる課題の多くについて解決をもたらし得ると評価している。
     
  9. ④ 欧州委員会よる有識者グループの設置

((下)に続く)

 

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