タイ:下請代金の支払遅延防止に関する新規制(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
タイの取引競争委員会(Trade Competition Commission)は、中小企業に対する商品又はサービスの購入代金の支払遅延防止に関する新規則(以下「本規則」)を制定した。本規則は、2021年6月18日付で官報に掲載され、12月16日(官報掲載日の180日後)から施行される。
タイにおいては、日本の下請法(下請代金支払遅延等防止法)に相当する法律は存在せず、これまで、下請取引に関して一定期間内での代金支払いを義務づけるような具体的な規制は存在しなかった。しかし、本規則の施行によって、一定の要件を充たす中小企業からの購買取引に関しては、支払期間について具体的な規制が導入されることとなる。タイ国内に下請先又は仕入先を抱える企業にとって影響が大きいと思われることから、以下、本規則の概要を紹介する。
本規則の位置づけ
本規則は、取引競争法(Trade Competition Act B.E. 2560(2017)。日本の独占禁止法に相当)に従って制定されたものである。取引競争法57条においては、以下のいずれかの方法によって、他の事業者に対して損害を生じさせる一定の行為を行うことが禁止されている。本規則は、同条における禁止行為の細則を定めたものと位置づけられる。
- ① 他の事業者の事業活動を不公正に阻害すること
- ② 市場における優越的な地位又は優越的な交渉力を不公正に利用すること
- ③ 他の事業者の事業活動を制限又は妨害する取引条件を不公正に設定すること
- ④ 取引競争委員会の通知により定めるその他の行為をすること
適用対象
本規則の適用対象となる中小企業(SME)の範囲は、以下のいずれかに該当する者と定義されている。これらの中小企業から商品又はサービスを購入する際には、代金支払いの期間(与信期間)について、本規則における規制が適用される。
- ① 従業員200名以下又は年間の収入が5億バーツ以下の、商品の製造者
- ② 従業員100名以下又は年間の収入が3億バーツ以下の、サービス提供者又は卸売若しくは小売事業者
定義上、親会社の事業規模等は考慮されないため、大企業の子会社であっても、上記の要件を充たせば対象となる。また、購入者(支払者)側の適用要件は特段設けられていないため、中小企業同士の取引であっても、形式的には適用があり得る。
規制内容
中小企業から商品又はサービスを購入する際の与信期間には、以下の規制が適用される。
(1)本規則3条
中小企業の間の与信期間に関する取り決めは、交渉力の低い中小企業に対する不公正な取引慣行、差別的取扱い及び制限を考慮して、中小企業の資金流動性を確保するものでなければならず、また、明確な書面の証拠に基づき、かつ、公正さ、説明及び根拠のある通常の事業過程を反映したものでなければならない。
(2)につづく
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(ささき・しょうへい)
長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。
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